束の間の時間の共有
怪我といってもかすり傷。
愛しい恋人が事あるごとに作るかすり傷を簡単に消毒し、絆創膏を貼り、話をする。
それが二人の日課になっていた。
「最近、怪我多いね」
「そうか?」
「うん」
手際よく絆創膏を貼る茜を見ながら静雄は答える。
怪我が増えたのは事実だが、それを指摘されるのは複雑な気分だった。
「喧嘩?」
「あー…まあそんなとこだ」
「ダメだよ、あんまり喧嘩しちゃ」
楽しそうな口調で茜はそんな言葉を口にする。
「こうやって話す時間を作れるのは嬉しいけどね」
はい、終わりと言って茜は静雄から離れる。
「今日は?」
「塾。迎えに来られてるから逃げられないの」
ごめんね、と言って茜は寂しそうな顔をする。
その表情に苦笑し、静雄は茜の頭を撫でた。
「じゃあ終わったら電話な。頑張ってこい」
「うん!」
満面の笑みで頷き、茜はその場を後にした。
その姿を見送り、静雄は大きくため息をついた。
怪我が増えたのは茜と付き合い始めたのと同時期だ。
触れたいけど怖くて触れることが出来ない。
そのもどかしさが苛立ちを生み、沸点が下がったのが理由だ。
「これだけは茜に知られたくねえな…」
誰に言うでもなく、静雄はそんな言葉を吐き出した。