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うそみたいにきれいだ

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6月30日 雨漏り

(多摩くんと緑くん)



「なんかしらないけど天井から水がたれてくるんだよね。なんかしらないけど」
「それはね。あまもりだよ」
「そうか…………な」
「そうだよ、何やってんの。現実から目をそらすなよ」
「うぐ」
「泣くなよ」
「ぐう」
「寝るなよ」

去年はこんなことなかったのにいいとべそべそ言うのをタオルタオルと急かしながら、そういえば去年はから梅雨だったなあとぼんやり思い出す。
学校の七不思議みたいな天井のしみを見上げて、不思議におかしくて少し笑った。

「みどりくんタオル二枚しかない……」
「は、なんで」
「まだかわいてない」
「タイミング悪いな。あれおろしなよ、俺が持ってきたやつ」
「お中元のやつ?」
「そう」
「やだよもったいないよ」
「言ってる場合かよ。つうかそのへんよけたほうがいいよ、ギターとか」
「ああ!」

じたばたとやりだすのを尻目に、洗面台の収納から化粧箱に入ったままのタオルを引っぱり出す。
まったくへんなとこけちくさいんだから。
ついでに浴室から洗面器も持ち出して、こないだ俺が勝手に掃除してからそれほど散らかっていない部屋の、見事なまでにど真ん中にぽたぽた落ちてくる水滴を受けた。まぬけた音がする。
驚くほど水を吸わないタオルにおまえにはタオルとしての体面というものがないのかと喝を入れながらどうにか畳を拭いて、洗面器のなかに水を絞ったところで、背後のじたばたが止まっていることに気付いた。

「……え、何してんの」
「いや、感動してる」
「あほなの」
「ありがとう緑くん。俺あなたがいないと生活もおぼつかないよ。だからおよめにきて下さい」
「ひとりっ子だから駄目。多摩くんがおむこにくればいいじゃん」
「俺だって末っ子長男だもん」
「とか言いつつさぼってんだろ。管理会社の人に電話しなさい」

俺のプロポーズううとべそべそ言うのをはいはいといなして洗面器に向き直り、恐らくして赤いであろう耳が見えないように髪を振った。

幾ぶんか弱くなった雨の音がする。
洗面器からまぬけた音がする。
おねがい、この部屋を静かにさせないで。



作品名:うそみたいにきれいだ 作家名:むくお