ほら、すぐに元通り
叶わないって分ってても、それでも君が大好きで、ごめんね。
ぼんやりと雨が叩きつけられている窓ガラスを見ながら、相馬は気分が沈んでいくのを他人事のように感じた。
最近よくある現象。
とまらない思考回路の負の連鎖。
こんなに自分は根暗だっただろうかとさえ思う。
これも皆、俺が佐藤君を好きになったせい。
好きにならなかったらよかったのに、どうしても目が離せなくて、もう好きになったのはいつだっただろうと深く考えなければ思いだせない。
「雨が洗い流してくれればいいのに。」
こんな不毛なこの思い。
じんわりと目に涙の膜がはる。
その量はしだいに増していき、ついにはほろりと頬を転がり落ちた。
「相馬さん、お客さんが…。相馬さん?大丈夫ですか?」
ぼろぼろと涙を流していると、キッチンの人出が足りないのか、あまり戦力として勘定されていない山田さんが俺を呼びに休憩室へと入ってきて、俺の様子を見て驚いていた。
俺は袖口で涙を拭うと立ち上がり、山田さんの頭をぽんぽんと叩く。
「大丈夫、今のことは俺と山田さんの秘密だよ。」
「はい、山田、誰にも言いません。」
拳を握って力強く返事をする山田さんに少し感謝をしながら、俺は休憩室から出た。
「ありがとね。」
「相馬さんは私の『お兄さん』ですから。」
べったりと背中にくっついた山田を引きずりながら俺はキッチンを目指した。
「遅れてごめん、何すればいい?」
「……とりあえず山田は相馬から離れろ。」
「いやです、今日は山田、相馬さんと一緒にいるって決めたんです。」
ぎゅっとお腹あたりに回された腕に力を込められ、思わず俺はぐえっと奇声を上げてしまった。
それでも、今はなんだか山田さんの温もりが離れるのが惜しくて、何も言わずにずらりと並ぶ注文票に目を向けた。
その間に自分の後ろで山田さんが佐藤君に頭をぐりぐりされ始めた。
仕方ない、と俺は顔に笑顔を向けると振り向いた。
「山田さーん、もう大丈夫だからね?動きずらいから離してね。佐藤君も、ほら仕事が溜まっちゃうよ!」
佐藤君が怪訝そうな顔をしたのは見ないふり。
笑ってごまかして、ほらいつも通りでしょ?