二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

死んで始まる物語(臨也と静雄/not腐)

INDEX|1ページ/1ページ|

 

 世界は美しい。そう、美しいのだ。優しさを被った欺瞞と疑念と欲と本能がすべてを支配して、それらはまったくべつの色に輝きながらゆらりとした甘ったるい優しさに馴染み、それは時として愛となり、愛は時としてそれらを剥き出して、すべて露見させてそうつまるところ世界は美しいのだ。そんな美しい世界に這いつくばる人間は今日も豪胆に我が正しい我こそがいや私だいや私だ私だ私だと愛を競い合い、結果身を滅ぼしてこうしているあいだにもだれか愛すべき人間が愛によって殺され死んでいく。愛とはそういうものだ。すべての始まりを担い命を育み、殺していく。だから俺は愛を愛しているのだ。愛はそのすべての責任を果たしている。生まれ落ちる結果も、そして自らによって作り出された命の末路をも管理している。そんな素晴らしいものを漠然と口にする人間にはほとほと呆れ返るしかないが、俺はそうあるからこそ人間を愛している。人間がほざく愛を愛しているのだ。
 こうして世界は愛に溢れ、その溢れる愛とはつまり慈悲であり、慈悲とはつまり慈愛であり、慈愛とはつまり情愛であり情愛は情けであって。馴れ合いを得意とする人間の確固たる流れがそこにはあって、俺はだからこそ人間すべてを愛している。嘘しか吐けぬその唇を今日も震わせ愛を盲信し、だからこそ生まれる命が巡り巡っている。人間は極めて分かりやすい。だから。そう。だからこそ、だ。
 平和島静雄は化け物だと言うのだ。そう。平和島静雄。この、愛に溢れた世界で平和島静雄だけが違う。アイツは愛を紡がず、求めもせず、ありのままに生きすぎてその平和島静雄という一個人を成り立たせている。使い古された、ひどく飾りたて輝く言葉を選ぶなら平和島静雄は他者からの愛を知らない。あれが生まれ持った力はこの世界で唯一の生き地獄であるだろう孤独を、あれにもたらした。平和島静雄はそれを受け入れるしか生きる方法はなかっただろう。あれの過去には大した興味はない。あれが暴力と引き替えにすべての愛から捨てられている今の事実にも、実際の興味はないのだ。だのに俺が、人間と呼ばれる生命体すべてを愛しているこの俺が、あれを化け物と呼ぶ理由。
 この美しくもこびりつき根付いた様々な常識の歪みのもとで回転している、愛すべき世界を破壊し続け、しかしそんな己の力を呪い、けれど恨みばかりで愛はない。力に愛され続けるあれは己のそれを拒み殻に閉じこもるように皮膚を被って生きている。理解しがたい、生命体だ。平和島静雄は、そう、平和島静雄は人間そのものの姿でしかなかい。生まれたままの姿でしかない。隠すことさえせず、ただ本能に任せ確立させた個人のままでひっそりと、ひどく鮮やかに透明な呼吸を繰り返している。慈しまれ愛され愛し、いずれ愛に死んでいくそれらだけが生きてこれた人間たち及びその他の底辺の動物たちのどこにだって属さない。あれは、ありのままに人間であって、けれどそんな命が生きていける世界ではなく、だからあれは人間とは呼べぬ、なにか、なのだ。
 そうであるから俺は、平和島静雄を化け物だと思う。それはとても、我ながら的確な表現であると自負している。愛という嘘でしか回らず生きられぬこの世界の秩序。歪みきった愛が愛としてまかり通るこの世界こそが美しい。そんな人間が人間らしいからこそ彼らは人間なのだ。俺の愛は彼らに捧げるべきものだ。そうこの愛も正しく歪んでいるからだ。俺の愛は歪んでいる。世界に合わせて歪めている。歪む人間たちに合わせて歪んでいる。そうそれが当たり前であるからだ。当たり前であるのが歪みであるなら、そこに突き抜ける直線はただの異物ではないのかそれこそが、歪みではないのか、と。

(………だからシズちゃんは、)

 化け物と呼ぶにふさわしい。歪む世界での直線は、世界そう世界の姿に秩序に常識に合わせ、歪むべきものだ。それすら許さぬあれの力は、だから、異端なのだと。畏怖と、そうだな少しの敬愛すら持って呼ぼうか化け物と。シズちゃん、だから君は死ぬべきだ。歪む世界に、シズちゃんほどの直線的なそれはいらないんだ。って、さあ。

  死んで始まる物語