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白々しい白(光馨/腐)

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 うららかな陽射しに、心地いい風に、あとは馨の笑顔があれば完璧、なのにね。それはきっと叶わないんだろうね。軽々しく絶望だと感じる僕は、だから浅はかと言われるんだろうね。
 馨の幸せを願う、そのどこがいけないというのだろう。なにを持ってして幸せと呼ぶのかは、個人の世界の解釈に違ってくるだろうに。
 僕のやり方が間違っていると、言うのは生命の、遺伝子の、道徳の倫理の、生物学的な上での、判断だろう。たとえばそれを律儀に守ったとして、馨が笑ってくれないのなら、そんなものに縛られる必要なんてこれっぽっちもないのに、それは僕の勝手でしかないんだ。
 馨は望まなかった。笑えない未来を選んで、自分がいくら踏みにじられようともかまわない、なんて不幸な道を選択した。それが馨の答えなら、納得してみせるつもりだったけど。

「馨はさ、」
「うん?」
「ひとりで生きていけるのかもしれないね」

 笑う馨を見ているのが辛いよ。僕が言いたいことを伝えられない、日本語という言語をどうにか取っ払ってしまえたら、ありのままに伝えたいのに、でも僕らには言葉しかなくて。
 幸せじゃなくても人は笑えるんだってことを痛いほどに知った。馨は強い。関係に依存しても中毒にはならない。だから笑えるのかな、でもこうやって考えてみても、僕には答えが見つかることはなくて。無限のループに嵌まるのは馨の得意とするところだったんだけど。近頃はそうでもないよね。悩みっぱなしだよ、馨をどうにか理解してあげたくて。

「…光はたまに難しいことをいうね」
「馨ほどじゃないと思うけど」
「じゃあどうして、急にあんなこと思ったの?」
「んー、そうやって聞かれると分かんないんだけどね」
「僕はね光、分かんないよ。ぜんぶ」

 綺麗に微笑んだ馨の白い頬を陽射しが突き刺している。冷え冷えと。残酷だ。どれだけ美しく見えるか、足して掛けて引いて割って二乗して、弾き出したような笑顔。ようするに作り物。でも、綺麗。だから残酷だ。
 なにもかもを知ったような口調で分からないよと呟く、それのどこまでが本当なのか、教えてほしい。馨の中に立ち入ることを許されなかった僕は、一生開けられることのない扉の前で、あれやこれやと考えていたら、いつのまにか餓死、とかね。ありえそう。
 僕がこれだけ馨のことで悩んでいると言ったって、馨はきっと信じない。認めない。それが馨だから。甘やかされてればいいんだよって、口癖だもん。その薄い唇からは欺瞞ばかり零れる。
 その欺瞞を乗せた風が心地よさを纏って肌を撫でていくのを、僕は目を細めて見守る。陽射しに温められた風は生温い、まるで馨そのものだ。
 テーブルを挟んだ向かい側に座る馨が、水の注がれたグラスを爪で緩やかに引っ掻いて、キ、と小さな音を立てた。最近の馨は水しか口にしない。透明で、ひいたソーサーの柄が屈折して伺える、水。色がついているものは信用ならない、そう前にぼやいていた。
 自分は嘘しか言わないのにね。皮肉に返したあの日、鮮やかに笑う馨の表情はやはり嘘めいていた。だって、僕は自分が大事だから。傷付くなんてごめんだよ。あの言葉は本心かな。あれも、ばらまく延長の他愛ない嘘かな。

「氷、溶けちゃったよ」

 残念そうな口調。呟いた馨はかりり、とさらにコップを引っ掻いた。もう音は鳴らない。

「一口も飲んでないじゃん。新しいの持ってこさせようか?」
「平気。冷たすぎるのも嫌だもんね」
「じゃあなんで氷入れたの?」
「んー、分かんないけど」

 さっきと既視感を抱かせる会話を、馨は楽しんでいるようだ。入っていた透明な氷がすべて溶けて、嵩の増したグラスにそれでもまだ口をつけようとはしない。氷を入れさせたのは馨だった。本当に、やることなすこと理解が追いつかない。
冷えているだろうグラスを包むように両手で持ち眺める、伏せた瞼から生える睫毛が震えている。
 どれだけ会話をこなしても、誰よりも一緒にいても、見えない本心は器用に拒絶だけを伺わせて、もう参ってしまいそう。なにを考えているんだろう。僕たちの関係は、なにを結末とするのだろう。
 僕は、馨への依存からはすでに抜け出してしまっているから。それを喜ばしいことだとは思えない、けれど、もう元にも戻れない。馨はそんな僕を祝福するようにさらに華々しく笑うようになった。拍車がかかったと言うべきだね。白々しい笑顔に。
 そして馨はどうなんだろう。依存されるのは僕は好きだ。馨を、名目をつけて守ることができる。でもなんだか虚しいばかりだ。最近はとくに。
 この終わらない、くだらないループにも飽きてきた。だのにやめることはそう簡単じゃないね。
 グラスを抱える馨の白く骨張った手の甲にも、細胞をいざ焼き付くさんと陽射しが突き刺していく。馨は透明な水を、大してあたたかくもない己の手のひらでそれでもあたためようと必死だ。


   白々しい白

「どう?」

 それから数十分無言でグラスを包んだ馨がようやく、水を舐めた。途端に、小さく肩を上下させてずっと持っていたそれを手放す。冷たかったんだろう。馨の体温じゃ大して温められないことを僕は知っていた。
 重力に逆らわず落下していくグラスがテーブルに着地、するには高さがありすぎて距離も遠すぎて、グラスは踏む大理石に真っ逆様、水をそこかしこに撒き散らしながら、グラスも欠片となって、そこかしこに撒き散らしながら。
 馨はそれを綺麗だと言った。未だそんな馨を突き刺したままの陽射しは、飛び散った破片にも惜しみなく降り注ぎ、乱反射。ああうん、それは、綺麗だね。

作品名:白々しい白(光馨/腐) 作家名:o2pn