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跡を残す。白い喉元に。薄く筋肉の乗った脇腹に。女のように柔らかい内股に。

 真似るように返される雷蔵の行為は、自分のそれに比べても幾分かぎこちない。そこが可愛らしいところでもあるのだが、と、三郎が密かに悦に入っていると、まるでそれを察したかのように、皮膚に歯を立てられた。
「痛っ」
「ご、ごめん、三郎っ」
「……いや。罰だな、これは」
「罰? 何のこと?」
 きょとんとする雷蔵には答えることなく、その唇を犬のように舐め上げる。苦笑しながらも目を閉じて受け入れる彼の背を、雛鳥を包む優しさでそっと抱き寄せた。
 任務の前の夜には、体を重ねる代わりに抱き合いながら戯れる。ふたりの間にそんな習慣ができたのは、いつの頃からだっただろう。互いの体に負担をかけない配慮、というわけでもなく、自然とそうなっていたような気がする。
 肩甲骨のかたちを、触れるか触れないかの微妙な距離で辿る。くすぐったげに身をよじる雷蔵の耳元に、三郎はそっと耳打ちした。
「ねえ、雷蔵」
「ん?」
「この跡が消えるまでの時間は、どれくらいかかると思う?」
「……そんなの……君だって知ってるだろ、十分」
 恥ずかしげに目を逸らす様をくすくすと笑いながら、絡めた指をひそかに強く握りこむ。
「そうだな、こんなもの、数日も経てば消えてしまう。でも」
 雷蔵の指を、手のひらに包んで口元へ運ぶ。かたちのよい爪にかり、と歯を立てながら、不意に掠れる声で三郎は呟いた。
「……死体になったら、跡は消えない」
 雷蔵が、息を詰めた気配がした。
「骨になっても、土に還っても、お互いにつけた残痕は未来永劫消えないんだ。そう思えば、少しはなぐさめにならないかな」
 いくらか投げやりな調子で三郎がそう言うと、意外にも雷蔵は、叱るでも落ち込むでもない、いつも通りの声音で返してきた。
「そんな方法じゃなくたって、跡を消さずにいることはできるよ」
「え?」
 顔を上げて雷蔵の目を見つめると、雷蔵はかすかに笑んで、三郎の鎖骨の上に唇を寄せる。軽い痛みが走り、また新しく赤い跡ができた。
「ほら、こんな風に。消える前に、また新しい跡をつければいい」
「……雷蔵」
「死んだら……もう、跡はつけられない……」
 ぽつりと言って、雷蔵は三郎の肩に顔を埋めた。ふわりとした髪の感触が、絡めた腕に纏わりつく。
「生きて帰ろう、三郎」
作品名: 作家名:いずみ