冷静の微動
「ったくホモばっか」
投げ捨てる言葉をなんとも感じちゃいないこの男の冷たい目に映るのは自分なのに、こいつには自分なんか見えてない。
「喘いでほしい?泣こうか。嫌だ嫌だって?お前なにがしたいの」
俺は無口を決め込んでなにも言わない。
薄い唇に重ねたらそこに膨張するのは間違いなく劣等感だ。そんなもの微塵も要らない。わかってるのに、じゃあ俺はなにをしたらいいんだろうか。
(綺麗な顔)
なぁ触れたらどうなる。
俺は虚しくお前を抱いて、お前は呼吸より自然に喘ぐんだとしたら、これはまるで意味が無いどころか、ナメクジ探しより時間の無駄だ。
「お前が欲しいのは団蔵じゃないのかよ」
「…わかんね」
「別に俺はいいけどね」
「なにが」
「わかんね」
たいしてしてもいない会話にすら飽きたように押し倒されていた体をスルスル動かして抜け出て立ち上がる。挑発的な顔だな。お前みたいなのに団蔵、って、意味わからない。
「つーか団蔵狙いでなんで俺を押し倒したわけ」
「よく喋るね、きり丸」
「黙れ」
どうやったって、プラスに向かない。
「……くっだらね」
「襲っといてそれ?」
「襲ってないじゃん」
「まーね。くれるもんくれるなら付き合ってもいいけど」
唇の右端だけあげて笑う、なんだ、ますますくだらない。
「ナメクジ探してくるわ」
「は?突然?喜三太の?逃げたの?」
「さぁ。でも少しでも意味あることしないとね」
「まったく意図が掴めないんですけど…」
振り返って、冷たい廊下を庭のほうに向かう。結局なにもスッキリしてないっていうよりなにひとつ変わりもしないまま、でもいらない虚無感を感じることもなかったんだからまぁいいか。
「なぁ兵チャン」
「なーにきりチャン」
「俺もお前も、ひねくれて生きすぎだよな。ああいう馬鹿が欲しくなる気持ちは、理解できるよ」
視界の端にもう1度映したきりまるは、1年のときの屈託のない笑顔をどこに忘れたんだか、相変わらず唇の右端だけあげて挑戦的に笑う。
「…のろけ?」
嫌みのつもりで言って、あっちはあっちで満面の笑みをする。嫌なヤツ。