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佐藤さんと八千代さんが両親だとうれしいですという疑似家族ネタ

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「山田、遂にわかりました!」
「何がだよ。ていうか働け」

 平日の開店すぐ、昼食のラッシュの準備に追われている中で唐突に声をあげた山田に俺は、いつも通りの言動と慣れた風に返す。

「ふっふっふっ、佐藤さん。知りたいですか? 知りたいですよね!? 特別に山田が教えてあげましょう!」
「いいから体を動かせ」
「そんな事を言っていいんですか? 佐藤さんと八千代さんの事なのに」
「……言ってみろ」

 準備が一段落ついた俺は、八千代がキッチンの近くにいないのを確認し煙草に火を点け、山田に続きを促した。
 最近は特にうるさいからな。いちいち休憩室に行っていてはキリがないからここで吸うのを止められん。
 俺が食い付いた事に気をよくした山田は、もったいぶるのも忘れずに尊大に切り出す。

「聞いてびっくりしないでください」
「しねえから早く言え」
「山田、佐藤さんと八千代さんが両親なのがベストだという事がわかったんです!」
「……お前、音尾のおっさん夫婦が良いって言ってなかったか?」

 八千代の突飛な言動に慣れている俺は、それと同じように会話の雰囲気を読んで先回りをして山田に疑問を投げかけた。

「音尾さんも良いですが、種島さんからもっと良い事を聞きましたよ?」
「何だよ」
「私がここに来る前に佐藤さんと八千代さん、店長の事で軽く言い合いをしたらしいですね?」
「そんな事もあったか。あれは店長と甘やかす八千代が悪かったんだ」
「そう! それです! 山田、その時の様子を種島さんから聞いてこれだって閃いたんです!」
「はぁ?」
「まるで子育てでケンカするお父さんとお母さんのようだったと! これこそまさに山田の理想の両親像です!」

 種島が何を言ったかと思ったらそんな事だったか。というか以前から思ってだが妙な部分に反応するんだな。
 八千代はこいつの事気に入っているみたいだが俺はあまり慣れんな。担当の相馬は今日は昼からか……どうしたものか。

「さあ! 早く八千代さんと私についてケンカしてください!」
「……おーい八千代ー」
「はいはーい、なぁに潤君?」
「山田が仕事をくれって言ってるぞ」
「あらそう? じゃあこっちで一緒に杏子さんのお手伝いしましょ」
「え? ちょっずるいです佐藤さん!」
「じゃ八千代、後は頼んだ」
「潤君も頑張ってね。それと煙草は休憩室か裏口でね」

 ならばその気に入っている八千代に何とかさせようと山田を追い出した俺は注意された手前、煙草の火を水道水で消すと軽く溜息を吐いた。
 いずれは今の山田の言葉を逆手に取って働かせるのも悪くはないか。山田の奴、俺達が付き合いだしてからやけに周りにいると思ってたがそういう事だったのか。
 まぁ、八千代に免じて今後は多少の我侭は許してやらん事もない。



 夫婦みたいだと言われて悪い気はしなかったからな。