さとやちで髪の毛乾かすイチャコラ
「だからタオルで拭いときゃ大丈夫だって」
「駄目よ。風邪引いちゃったらどうするの?」
「前から言ってるが今までそんなので引いた事はないから構わん」
「またそう言って。これからはわからないでしょ? だからね?」
「……わかったよ」
この家に私が来るようになってから使われ始めた、埃が被りっぱなしだったドライヤー。
聞くと、一人暮らしを始めた時に実家から持ってきたらしいけど、数回使ってそのまま置きっぱなしになっていたみたい。
それを見つけた私は綺麗に掃除し、やがていつ頃からだったか、お風呂上りの潤君の髪を乾かすのが習慣になっていた。
「熱くない?」
「大丈夫だ」
あぐらを掻いた潤君の後ろから風を送り始めて少し、頃合いをみて話しかける。
いつものやり取り。いつもの空気。いつもの安心感。
こうやってブローしながら手でブラッシングしていると、梳いた髪がその色の薄さとシャンプー後の髪質の良さのせいで透き通っているみたい。
絹のような髪、と言うのかしら? 私は癖毛で毛先が跳ねているから羨ましいわ。
「上手いな。気持ちいいよ」
「そう? ありがとう。でもそう思うんだったらもうちょっと素直に最初からブローされてくれると嬉しいけど」
「前向きに考えておくよ」
「お願いね」
何だかんだ言って潤君も気に入ってくれているみたい。
顔を見てみるとほら、気持ち良さそうに目を瞑ってされるがままになっていて、まるで子犬みたいでかわいいわ。
「八千代」
「なに?」
「今、変な事想像してただろ」
「え? あの、して……ないわ」
……何でばれたのかしら? 前を向いて目を瞑っていたはずなのに。
突然の事にしどろもどろしていると、潤君が呆れたように種明かしをしてくれた。
「前を見てみろ」
「……鏡?」
「薄目を開けたらニヤケ面が映っていたからな。何を想像していたんだ?」
「な、何も変な事なんか想像していないわ……はい、もうおしまい!」
「それならいいんだが。終わったか? くっ……ドライヤーされると眠くなるな」
ニヤニヤしていたらしい顔を見られた私は何とか取り繕うとブローを切り上げた。そんなに緩んでいたのかしら?
やっと開放されたと言わんばかりにあくびをしながら伸びをする潤君の顔は、気持ちよかったのか、今にも眠ってしまいそう。
「片付けてくるからきちんと上の服も着るのよ?」
「わかってるよ」
そう言って洗面台に片付けに行って帰ってきて、飛び込んできた光景はシャツも着ずにそのまま寝ている姿。
もう、話聞いていなかったのかしら? せっかく髪を乾かしたのにこれじゃあ結局、風邪引いちゃうじゃない。
せっかくもっとお話したりしようと思ってたのに先に寝ちゃって。
困って呆れたように布団を掛けてあげようとして、ふと気づいたわ。
何に?
起きている時からは殆ど見えない、まだ少し残る少年のようなあどけない顔によ。
それに気づくと後は釘付けで、今までの感情はどこかに行ってしまって。
もっと近くで見ようと一緒に布団を被って腕の中に入って、寝顔に顔を寄せて。思わず笑顔になっていて。
そのかわいい寝顔と腕の温もりに包まれながらいつのまにか、微睡みに落ちていったの。
作品名:さとやちで髪の毛乾かすイチャコラ 作家名:ひさと翼