彗クロ 1
「なあ、答えろよ!! どいつもこいつも……ルークのせいじゃ……ルークだけのせいじゃないのに……アクゼリュス……一万殺し……テメェの罪を肩代わりさせられて……人を、殺して! 屑とか、ニセモノとか、出来損ないとか、ひどいこと、ばっか……ッ。瘴気中和ってなんだよ……音素乖離ってさあ……! ルークばっか……ルークだけ……なんで、なんでルークが死ん――……大、爆発……? なに、それ」
「いけない……!」
遠いどこかで誰かが声を荒げている。あれは誰/あれはジェイド/ジェイド・カーティス/そしてジェイド・バルフォア/レプリカ理論を構築した鬼才/すべてのレプリカの父/すべての悲劇の種子/大爆発(ビッグ・バン)の理論を最初に提唱した予言者。
(大爆発は完全同位体間に発現することが予測されていた特殊なコンタミネーション現象です。その実態は、被験者の音素が外部に流出したレプリカ情報を回収しようとする一連の補完活動と言え――)
(被験者はレプリカの存在を吸収、統合)
(レプリカは――記憶を)
(記憶のみがコンタミネイトされ――)
(人格は)
(思いは)
(心は)
(き)
(え)
(る)
(それは死)
「……知ってた……?」
レグルは思索の間隙に落ち込んでいた面をぼんやりと持ち上げた。茫然と眦を決した碧玉は、もはやうまく焦点を結べていない。かたかたと全身が震えを帯びる。
途方もない怒りに。
「知ってて、黙ってた……? ルーク、しぬって……生まれた時から死ぬって決まってたって……? なんでそん……なんで、そんなこと……だってあいつ、ルーク、ななねん……七年しか……」
「止しなさいそれ以上は――」
「――七年しか!! 生きてなかったのに!!」
衝動が叫びとなり、叫びが力となるのを、レグルは自覚した。全身の骨という骨が浮き上がるような感覚が外方向へ弾け、次の瞬間、石造りの室内を激しく揺さぶった。
光一枚差し挟まれた直後の視界、中央に呆然と立ちすくむ男の真横、わずか半歩ばかり離れた床が、ごっそりと円形に抉り取られていた。
――ちから、だ。
レグルが、やったのだ。
(でも、おれのじゃない)
ルークの力だ。
「それ以上『記憶』を読み込むのは止めなさい、レグル・フレッツェン!!」
鼓膜に叩きつけられる声が、うるさい。
(うん、おれはレグル)
(ルークじゃない)
(けど、おれが手を離したら、ルークはどこへ?)
その先に、希望なんてありはしない。
「ルークを殺して生き延びたやつら、」
紅髪の被験者野郎が、茫然自失の目端の筋肉をひきつらせた。返答はそれで十分だった。
「おれはぜったいにゆるさない」
間欠泉は決壊した。
幼い衝動そのままに、レグルは力を解放した。