彗クロ 1
堕ちゆく大地に剣を突き立てる行為は、覚悟の証だった。第七の精霊が囚われた地の底の世界は、神秘の緑光をたゆたわせていた。半身の亡骸を受け止めた感触は、ただ悲しかった。燃え盛る焔を人らしき姿に象った意識体は「驚嘆に値する」嘯いて天へと昇った。焔の行方を見送って、終わりのない降下の感覚に眼差しを閉ざした。透けた両手。それが命の答えだった。悔いはたくさん残っていても、断ち切るだけの整理は終えた。腕の中でわずかに跳ねた命の手応えは、願望から生まれた身勝手な錯覚ではないかと危ぶみながらも、『彼』は素直に喜んでいた。あえかな奇跡の感触を心から祝福しながら、音素の海に紛れて消えた――
そんな小さな心の欠片だけを置き遺して、救われた世界に、彼だけがいない。
(何も知らずにお前が祝福したこのくそ忌々しい奇跡とやらがお前の命と引き換えに履行されたものだと知ったら、お前は俺を怨むのか、『ルーク』)
脳裏に焼き付けた白日夢より醒めると、赤目の死霊使いの姿も背後から剣先を突きつけてくる気配も、とうに消えていた。
ただひとり取り残された事実にひどく打ちのめされている己があまりにも惨めで、やる場のない拳は振り下ろした先で罪のない卓に悲鳴を上げさせた。