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23時間戦争

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晴れた池袋
今日も平和な一日が

一瞬で終わりを告げた。



■23時間戦争


「池袋に来るなって何回言えば分かるんだ?いーざーやーくーんー?」

200mくらい響きそうな低音と2kmくらい遠くからでも分かりやすい服装

池袋にはそういった類の店もあるが、明らかにその服装からは似合わない声。
むしろ似合わなすぎて一種の趣すら感じるような気すらしてくる

(ついに俺の頭も可笑しくなったかな)

自嘲気味に笑う。
自嘲気味と言っても表現上での事で、実際呆れたのも溜息も自分に対してではなく目の前の"彼"に対してだ



「いやだなぁシズちゃん……。
そりゃ僕だって仕事してるんだから池袋に全く来ないなんて出来るワケないでしょ?」

やれやれと溜息を吐くと返事の
代わりに飛んでくるのは赤い物体。

そういえばあの会社から新商品でチョコレート味の炭酸飲料が発売されたってチャットルームでバキュラさんが言ってたっけ。

(まあ、どうでもいいけど。とりあえずどうしよう…か)



だって無理。物理的に無理。

どんな定理でも飛んでくる物体の面積と重量を考えたら避けるなんて無理。

背を向けたら脊椎が綺麗に二つに折れるだろう。

むしろこれが空を飛んでる事がありえない。

だってちゃんと都の条例で歩道に固定設置って決まってるんだよ?

なのに何でそれを持ち上げるの?
「それ投げるものじゃないって多分幼稚園の子でも知ってるよ?シズちゃん」

「うるせぇ。オマエが目の前から消えれば俺はこれ投げなくて済むんだ。
だからとっとと消えろ失せろ。
むしろ存在が消えろ」

「やだなぁ…ほんとシズちゃんは理屈が通じないんだから。別にシズちゃんに会いに来たわけじゃないって仕事で池袋に来たら偶然シズちゃんが居ただけだよ?」


「オマエの仕事がマトモなら俺だって少しは考えてもいいぜ、自販機じゃなくて標識にでもしてやるよ」


結局のところ譲歩は投げる物体の総重量という事で落ち着いたらしい。

「じゃあシズちゃんの為にマトモな職業にでも就こうかな~警官とか」

その言葉に自販機にメリっとくっきりと手形がつく。



「テメーがパトランプにされてぇのか。よし分かった今すぐパトカー持ってこいや」

毎度言っている事だが彼-平和島静雄という人間には理屈も理由も、多分この世界に溢れている常識や理論も全て通じない。

あるのはその世界の理すら壊す絶対的な暴力

自動販売機が空を飛び、人はマネキン人形のように軽々と宙を舞う。

そこにあるのは唯々 暴力。

それ以上の言葉もそれ以下の言葉も存在しない。


(まあシズちゃんは自分のコト嫌いだからな~)

さて、本題に戻そう。

一度目の自動販売機はかろうじて歩道の真ん中に無造作に置かれる事になり、二度目の標識は何とか回避して現在袋小路の池袋を目を輝かせながら散策されている。



(ていうかもう何時間だろ・・・)

正確に云えば一度巻いたのだ。
池袋での仕事を終えて、新宿に戻って一息吐いた時に、新しい仕事の依頼を受けた。


それがまた池袋で
そしてまたバーテンの人を発見して
やっぱりシズちゃんで
やっぱり同じやり取りをして


今に至る。

時計は昼からぐるりと一周してしまい、さすがに疲労困憊という言葉を表すように次第に息は切れ、思考は精密さを欠く。



臨也は路地裏にぺたりとしゃがみ込む。

目の前には標識を槍か何かのように
当たり前に持った静雄がこちらの出方を伺うように経っていた。

「ねーシズちゃん?そろそろ眠いんだけど。いい加減見逃してよ」

「眠いならテメェが勝手に寝ればいいだろーが」

「やだよ。そうしたら自販機が布団代わりになっちゃうもん。シズちゃんが先に寝てくれるならいいよ?」

「そしたらテメェに殺されるだけだろうが」

当たり前に放たれた言葉に臨也はにっこりと笑みを浮かべた


「うん、勿論。あ、でもシズちゃん死ななそうだしなぁ・・ってホントに眠い・・・・限界か・・も・・・」

「おい、テメェ・・・・・勝手に寝る・・・」

池袋全体に眩しい朝の光が降り注ぐ
そして今日も池袋は平和な一日を迎えようとしていた。

この二人のしばしの休息によって


戦争時間23時間

休息 1時間


あと何回繰り返せば

「君達二人は飽きるという事を覚えるんだい?まったく・・・」

明らかに労働基準法に違反している時間に白衣を来た医者はそう呟いた。
作品名:23時間戦争 作家名:伊月