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蜜月―正臣編―

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 心配気に声をかけた杏里に笑って見せてから、正臣は僅かに視線を上げて学生の集団を見た。すぐに目を逸らし、顔を背けて俯く。正臣は込み上げる不安と戦いながら、嫌がる足を動かした。どんどん集団との距離が近付く。
 しかし、あと少しですれ違うという所になって、クレープを食べ終えた帝人が顔を上げた。そして、正臣の方を向いて口を開く。
 ――――――呼ぶな!
 正臣は、心中で強く念じた。その願いが届いたのかどうか、帝人の口から正臣の名は出なかった。
「分かった。社会Aって、うちの担当の先生がテスト作ったからだ。結構癖のある先生だから、他の先生の授業だと点取りにくいんじゃない?」
 学生の集団を通り過ぎながら、帝人は無邪気に先ほどの疑問の答えを口にした。何事もなくすれ違えたことに安堵しつつ、正臣は平静を装って答える。
「中間の時はうちの先生が作ってたけど、そんなこと無かったよな? なんかズルくね?」
 残りのクレープを口に詰め込み、咀嚼しながら、正臣は考えた。昔の友達と今の友達、どちらも大事なはずなのに。
 ――――――結局俺は、自分が可愛いだけだ。
 空回りする思考で、正臣はそう結論付けた。

「夏休み、帝人は実家に帰っちゃうんだろ?」
 階段を下りきって歩道に着くと、正臣は暗い思考を振り切って話しはじめた。帝人が肩を竦めながら答える。
「こっち出て来るのに強引に説得したから、夏休みは帰って来いってうるさくて」
「つまんないなー。あ、いいこと考えた! 俺も遊びに行っていい? 久々の地元!」
 正臣は、小学生の頃まで住んでいた、田舎の風景を思い出す。正臣には帰れる家が無いので、東京に出てきて以来それっきりだった。もう記憶もおぼろげだ。空気が綺麗で空が広いぐらいしか良い所は無かった気がするが、何よりも懐かしい。
「いいけど……あ、やっぱダメ」
「なんで!?」
「だって、親説得する時に、紀田君は真面目でしっかりしてて、すごく良い人だって言っちゃったもん」
「嘘なのかよ」
 正臣は口を尖らせた。
「第一、その茶髪でピアスじゃらじゃらしてたら目立って仕方ないと思うよ。少なくともうちの親は卒倒する」
 もっともらしい帝人の言い分に、分かっていても切ない気分になる。
「じゃあ杏里遊ぼう。海行こうぜ海!」
 正臣は気を取り直し、杏里に向き直った。
「私、日に焼けるとすぐ痛くなっちゃうので、海はちょっと」
 会話の成り行きを見守っていた杏里は、申し訳無さそうに眉を寄せた。二人に振られた正臣は、がっくり肩を落とすポーズを取った。
「いいもんねー。この夏休みにナンパしまくって、たくさん彼女作るから。羨ましがっても知らないぞ」
 正臣が拗ねた口調で言うと、帝人と杏里が顔を見合わせた。
「彼女はたくさんいたらまずいんじゃないかな」
「あの、でも、海じゃなければ遊びに行けると思います」
 二人が口々に言うのをじと目で見ると、二人はさらに言い募る。
「ていうか、僕もずっと向こうにいるわけじゃないし、すぐ帰って来るんだから。そしたらまた遊べばいいじゃん」
「それまでに宿題を済ませておけば、たくさん遊べますよ」
「あ、そういえば、歴史散策の宿題一緒に行こうよ」
「そうですね、紀田君も」
 正臣は拗ねたふりを続けながら、帝人と杏里の顔を見比べる。
 そして、何の前触れもなく、二人に飛びついた。その拍子に、被っていたフードが取れる。
 ――――――結局俺は、自分が可愛い。
 驚く杏里と、怒る帝人がおかしくて、正臣は笑った。
 どうしようもなく楽しくて、この空間が好きで仕方なかった。

 ――――――俺は、馬鹿だ。


作品名:蜜月―正臣編― 作家名:窓子