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【米英】Dreamer

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俺はある日、決意した。

言うぞ…今日こそ、告げるんだ!
ずっと隠してきた…この想いを。

思えば、もう随分長い時間そうだった。
この想いに気付かれたくなくて、からかって…誤魔化して…
でもそんな子供っぽい真似はもう止めだ。

俺は、長年の想い人である彼に…告白する!
そう、イギリスに。

決意は衝動的なものだったけれど、覚悟は確かなものだった。
時間が経ったからって揺らぐはずもないけれど、でも、次の機会を待つなんて悠長なのは性に合わない。
だから、思い立ったが吉日(これは日本に教えてもらった言葉だ)、俺はすぐに手配したフライトでロンドンへ向けて発った。

彼はどんな反応をするんだろう?
まずビックリした顔をして…いや、それとも呆気に取られるかな?
そして赤面しながら焦って、それでもそれを押し隠すように努めて失敗して…
『な、何言ってんだよばか』くらいは言うな、うん。
まず間違いなく、すぐには信じないんだろうけど。
それでも、そこで引く訳には行かない。
引いてしまえば『次の機会』がまた来たとしても『またタチの悪いジョークか』くらいにしか思われなくなる。
だって彼は頑なで、悲観主義で、何より向けられる好意に慣れていない。
俺の想いを真実だと受け入れてくれるまで、何度も告げよう。
そうしていたら、きっと鈍感なあの人でも気付くはずさ。

彼の想いなら分かってる。
自惚れでも勘違いでもないことは、何度も自問自答と解析を重ねた結果間違いないだろうことも。
大丈夫だ、このミッションは成功する。
彼に想いを告げて…彼がそれを受け入れたら…
そうすれば、きっと幸せな時間が待っている。
それは恐らく、夢のような世界なんだろう。

浮き足立った俺の心に引き攣られでもしたかのように、ロンドンは青い空が珍しく晴れ渡っていた。
先行きは上々だ!



空港で乗ったキャブで彼の私宅へ向かう。
少しだけ手前で降りて、気分を落ち着けた。
さぁ、いよいよだ。

あぁでも、深呼吸は玄関の目前にしよう。
その方が効果が長持ちしそうな気がする…気休めだろうけど。
今時にしては有り得ない程アンティークめいた門扉を開けて玄関の扉まで向かおうとした時、サァと水の音が聞こえて思わずそっちの方向に視線を向けた。
門扉越しに見えた庭の一角で家の主の姿を目に留めると、不意を突かれた心臓が急ピッチで跳ね上がった。
「イギリス…!!」
「え?あれ?アメリカ…?おま…っ、来る時はアポ取れっていっつも言ってんだろーが!…ったく」
一瞬驚いた顔をして、次に呆れたような怒ったような表情をした後に、彼は苦笑した。
変わらずの百面相。
彼が意外にも表情豊かだってこと、いったいどれくらいの人間(国も)知っているだろう?
あぁでも本当は俺だけであって欲しいって思ってるんだよ。
さすがに恥ずかしすぎてそんなことは言えないけどね!

「何しに来たんだよ?」
何しに?
あぁそうだ!!俺は…俺はイギリスに想いを告げるために…っ!!

ごく、と喉が鳴ったのが自分で分かった。
顔が熱い。
緊張してる。
当然だ、生まれて初めてなんだから。
愛の告白なんて!

「い、イギリス!!俺…俺は…、君のことが好きなんだ!ずっと、ずっと好きだったんだぞ!」
「は…!?え!?あ、ア…メリカ…?」
驚き困惑した表情をするイギリス。
でもその顔はすぐに目に見えて赤くなっていった。
「君のことだから…すぐには信じないかもしれないけど、でも俺は本当に…っ」
「嬉しい…」
「え?」
ぽつりと、彼の口から零れた言葉に、俺は思わず言葉を止めてしまう。
彼は、今なんて言ったんだ?
「すごく嬉しい…アメリカ。俺だって、ずっとずっと好きだった」
「イ、イギリス…」
込み上げるこの感情をなんと表現したらいいんだろう。
とにかく、しんじられない思いだった。
(まさか、彼がこんな素直になるだなんて…すごい!!良かった!思い切って告白したのは間違いじゃなかったんだ!!)
心の中で叫んで、幸福感を噛み締める。
じっとイギリスの瞳を見詰めると、潤んだ緑色がすっと細くなって笑顔を形作った。
「あぁ…幸せだ…!!今日は何て幸せなんだろう」
うっとりとそう呟く声を聞いて、感激した。
何て嬉しそうな顔。
彼のこんな嬉しそうな表情を見るのは、本当に本当に久しぶりだ。
良かった、勇気を出して。
彼に想いを告げて、本当に良かった!
「イギリス…俺…っ」
抱きしめて俺も幸せだよと告げようとしたけれど、その手は空ぶってしまう。
イギリスは不意に天を仰ぎ、満面の笑みを浮かべたまま高らかに叫んだ。
「今日の夢は、本当に幸せだ!」
「…へ?」
いま…なんて?
呆気に取られる俺を他所に、俺の目前で彼はあはははと笑いながら更に続ける。
「アメリカが俺のことを好きになるだなんて!そんなこと…現実じゃ絶対有り得ない!絶対にだ!!だって現実のアイツは俺のこと嫌ってる。「くたばれ」なんて言ってくる!戦争してまで俺から離れたがったんだから間違いない!!」
「いや…あの…イギリス…?」
妙に確信的に言うその言葉の内容に愕然とした思いを抱きながらも、俺はとにかく彼の関心をこちらに戻そうと空しい努力をする。
お願い帰ってきてくれよ、頼むからおかしな方向に行ってしまわないで。
「だけど夢では…夢でだけはいつもお前は優しい…。そりゃそうだよな!夢だもんな!!この俺の、痛い妄想なんだから当たり前だ!!」
(痛いのは君のその反応だよ…)
どんどんヒートアップしていく彼の言動に、俺はむしろどんどん冷めていってしまっていた。
「でも今日のは本当に格別だ…いつもの夢なら、俺の作ったスコーンを文句を言わずに食べたり、妖精がいるって言っても白い目で見なかったりするくらいなのに!」
(その程度でも『いつも優しい』に分類されるんだね…)
普段の俺は君にとってそんなにも酷い男かい?
きっと他の連中なんかよりよっぽど寛容なのに!
俺だから、その程度で済むんだよ?
現実を見てくれよ、お願いだから!
「聞いてくれよ!夢の中のアメリカが俺のことを好きだって言ったんだ!…え?はは、何言ってるんだよ!現実な訳ないだろ?これは、幸せな夢なんだ…」
うん…無理だね。
彼の暴走を止めることをすっかり諦めてしまった俺は、見えない何かと楽しそうにくるくる回るイギリスをそっと見詰めながら立ち尽くすだけだった。

あぁ誰か、俺の言葉を聞いてくれるかい?
そして答えてくれ!

「これは夢だ」って!

だってそうだろ?
こんなもの、とびっきりの悪夢に決まってるじゃないか!!
作品名:【米英】Dreamer 作家名:カナ