【米英】DROP
呆然と立ち尽くしながら、アメリカは思った。
その前では、ひっくひっくとしゃくりを上げて泣きじゃくる男性ひとり。
当然のことそれはイギリスで、それ以外には誰もいない。
ここにいるのはアメリカとイギリスだけだった。
だからこそ余計に救いの求め先がなくて、アメリカは立ち尽くすしかなかった。
(どうしていつもこうなるんだろう?)
はぁ、と深く息を吐き出した。
目前で泣きじゃくる相手にはわからないように、こっそりと。
気付かれたならまた面倒なことになる。
自分が泣いたことでアメリカが煩わしく感じている、などと思い込むに決まっているから。
(別にいつも、泣かせるつもりなんかじゃない)
なのに、気付けば彼は泣いている。
そりゃあアメリカの言葉が原因なのは明白だけれど、それでも泣くことは無いじゃないかといつもアメリカは思う。
聞き流せばいい程度の軽口だ。
(第一、俺はこの人の泣き顔が苦手なんだ)
脳裏に浮かぶ、一番嫌な雨の日の思い出。
自分にとっても、一生忘れられないあの日のこと。
泣き顔を見れば必然的に甦る、あの…次から次に溢れ出る涙。
(本当に、本当に苦手なんだ…)
キリキリと痛む。
頭と、胸と。
相変わらず目前では子供みたいに泣き続けているイギリスの姿。
あぁもう、こんな雰囲気は嫌いだ!
そう叫び出したくなる。
「い、いい加減泣き止みなよ!」
そうじゃないと、いつまでも立ち尽くすことになる。
こんなどうしていいのか分らない状態は困る。
「うっせ…ひっく…ばか…っ」
弱々しい声のくせに、皮肉はきっちり忘れない。
泣くのも止まらない。
こうなってくると、困るのも通り越してこっちまで悲しくなってくる。
「…何で、そんなに泣くんだ…いつからそんな泣き虫になったんだい?」
(昔は、泣き顔なんて滅多に見せなかったくせに)
心の中だけでひと言付け足して、アメリカはイギリスに問いかけた。
そう、昔は…いつも笑ってた。
優しげに、穏やかに。
まだ幼いアメリカの前で、彼はいつも笑っていたのに。
「し、仕方ねえだろ…」
嗚咽がまだ残っている声は、酷く聞き取りにくい。
それでも、懸命にイギリスは続きを口にする。
「あの頃は…幸せだったんだ。本当に、本当に幸せだった…」
涙を瞳いっぱいに湛えたその緑色は、今を見てはいなかった。
はるか昔に消え去った、もう思い出の中にしかない幸福を見詰めていた。
「……」
アメリカが黙ったままでいると、イギリスは過去と現実の相違に哀しくなったのか、また大粒の涙を流した。
「う…っ、っく」
次第に大きくなっていく嗚咽に、アメリカは先程と同じように深い息を吐き出した。
今度は、隠しもしない。
(成る程、簡単な話じゃないか)
君を泣き止ませる方法なんて。
「イギリス、ひとつ提案があるんだけれど」
「…?」
アメリカの言葉に、イギリスはぐしゃぐしゃになった泣き顔を向けた。
その情けない顔はまるきり子供みたいだ、と思った。
幼ささえ感じるその顔は、可愛らしくはあったけれど…やっぱりみたいのは笑顔だった。
「あの頃以上に幸せになれば、君はもう泣いたりしないでくれるよね」
「はぁ…?」
不可思議そうに発せられた声と共に、イギリスの眉が怪訝そうに歪んだ。
そんなイギリスに向け、アメリカはとびっきりの笑顔で言い放つ。
「弟には戻れないけど、変わりに恋人同士って言うのも言いと思わないかい?とびっきり幸せな恋人同士さ!」
「はぁ!?そ、そんなの…っ」
驚きに見開かれた瞳。
うん、悪くない。
そう思った。
そして、駄目押しのひと言を告げれば、この告白は完璧なものとなる。
「反対意見は認めないんだぞ!」