二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【米英・仏英】Blaster

INDEX|1ページ/1ページ|

 

災いはいつでも、唐突に襲い来るものである。
特に、人間関係における災いは。

「フランス!イギリス見なかったかい!?」言葉が先か、身体が先か。
飛び込んできたその相手に、フランスは驚くというよりは呆気に取られる。
自販機の設置してある会議場の休憩室。
会議がお開きになり、ちょっとひと休憩してから帰るか…などと考えていたフランスだったが、その予定は出鼻をくじかれた。
必死の形相で髪も乱したその青年は、明らかに普段よりは興奮状態にあった。
「ようアメリカ、お疲れさん」
相手のテンションに引きずられることなく、フランスは飄々と言い放つ。
相手はそれに苛立ったという様子を隠そうともせず、つかつかとフランスに近付いてきた。
力の篭った靴音が耳に煩わしかった。
「お疲れ様!で!?見たの?見てないの!?」
「おいおい、落ち着けよ。そんな怖い顔で追い回してたら逃げられて当然だぞ」
それを聞いたアメリカの頬がぴくりと引き攣った。
「そんな酷い顔になってるかい?」
「そりゃあもう!…ほれ、これでも飲んで落ち着け」
言って、紙コップに入ったコーヒーを差し出す。
今しがた自分で飲むつもりで自販機で買ったものだ。
アメリカは憮然とした顔でそれを受け取り、サンクスと小さく呟いた。
「で?何だってんだ?イギリスがどうかしたのか?」
新たにもう一杯コーヒーを買いながら、フランスは尋ねる。
その問いにアメリカは、きつく眉根を寄せながら
「俺を避けてる」
と、短く答えた。
そんなことくらいは一見して判断できていたフランスは、その答えに対し淡泊な相槌だけを返した。
アメリカもさして気に留めていない…というより、内側から込み上げる感情が強すぎて、フランスの様子にまで気が回っていない様子で続ける。
「いつまではぐらかすつもりなんだろうね、全く!グダグダと逃げ回ってなんかいないで、俺のものになっちゃばいいのに!」
その言葉には、さすがのフランスもぎょっとした。
アメリカがイギリスに向ける想いは、少しばかり聡い人間ならばすぐに気付くような分かりやすいものだ。
けれどまさかここまでおおっぴらに口にするとは思っていなかった。
それだけ周りが見えていない状態なのだろうか。
何と反応すべきかしばし考え込んでいると、アメリカは苛立った様子のままフランスをじっと見てきた。
「なに?おにーさんの顔に何かついてる?」
おどけた口調で言いながらも、向けられる眼光が妙に鋭くて、フランスは内心で冷や汗をかく。
けれどアメリカは、そのままどこか拗ねたような顔をして…そしてこんな質問を投げ掛けてきた。
「ねぇ聞きたいんだけど…イギリスに人間の恋人なんていないよね?」
「へっ?
思わず間の抜けた声が出た。
どうしてここで人間の恋人などという疑惑が浮上しているのだろうと思いながらも、フランスは答える。
「人間の恋人ねぇ…それはいないんじゃないか?まぁ、俺の知る限りでは…だけど」
「やっぱり!あの嘘つき!!」
唐突に上がった叫び声に、フランスはびくっと肩を跳ねさせた。
手の中のコーヒーも跳ね上がったけれど、幸いカップから零れはしなかった。「驚かすなよ!それがどうしたってんだ?」
「イギリスのヤツ、俺が告白したのにはぐらかすんだ!聞かなかったふりしたり、曖昧な返事したり!電話やメールは出ないし、直接会おうにもこれだ!その上、会議後に話し合うつもりでいたら、恋人がいるから付き合えないの一言だけ言って逃げるだなんて…ふざけるなよ!!」
アメリカはかなり憤慨した状態だった。
この若者がこれだけ声を荒げて怒りを露わにしている様を初めて見て、フランスは思わず苦笑した。
原因は結局イギリスの方にあるのだ。
逃げ回ってないで真っ正面から向き合う以外に解決策はないというのに、いい加減観念してくれと、今ここにいない諸悪の根源に内心で告げる。
とばっちりは御免だ。
けれど、関わってしまった。
目前の若者の怒りは、よりヒートアップしてしまっているようだ。
「人間じゃないんじゃねぇの?」
ぽつり、と零した一言だったけれど、それでもアメリカの耳に届いたらしい。「え…?」
訝しむような視線が、突き刺さる。
下手なことを言えば噛み付かれかねない鋭さだ。
けれど、敢えてそれには素知らぬふりで、もう一度告げる。
「だから、恋人ってのが人間じゃなく国同士って可能性もあるだろ?」
「……」
フランスの言葉に、アメリカは沈黙する。
けれど、鋭い視線はそのままだ。
そして、たっぷり間を持たせたその後に…
「それはない」
そう、はっきりと言った。
「彼が国と付き合うなんて、有り得ない。対等な立場の人間に対しては無駄に見栄っ張りで、孤立ばかりしてるあの人が、上手く国同士で付き合えるなんて思わない。それに、もしも関係が上手くいくようなことがあっても、付き合おうなんて考える馬鹿はいないと思うよ…俺がいるからね」
その言葉に、さすがにフランスも驚きを露わにした。
アメリカがイギリスに向ける想いに対し、フランスはアメリカが隠し切れず吐露してしまっているものだと思い込んでいた。
けれどそれは大きな間違いだった。
気付かされていた…つまり、警告を受けていたということに、今まで思い至らなかった自分に舌を打ちたくなった。
まさか、計算された行為だったとは。
それにいまさら気付くなんてことが、悔しくすら感じられた。
「後にも先にも、俺以外なんて選ばせない。それが人間だろうと国だろうとね」
冷たく言い放っと、アメリカは残ったコーヒーを一気に飲み干して、手の中の紙コップをくしゃりと握り潰した。
「うん、ちょっと落ち着いた。よくよく考えたら、追い回さなくてもイギリスの行動を読めばすぐに捕まえられそうだよ」
そう言って手近な屑箱に向けて、潰した紙コップを投げた。
見事中に納まったそれを横目で見ながら、落ち着かせたのはむしろ間違いだったかもしれないなどとフランスは思った。
「じゃあね、フランス。ご馳走様!」
笑顔でそう一言残し、突然舞い込んだ嵐は颯爽と去って行った。
ひとり残されたフランスは、どっと疲れが押し寄せるのを感じ、深く長い溜息を吐いた。
去り際の朗らかさが逆に怖い。
もしかすると、それすらも演技じゃないのか?と疑いを持ちたくなる。
何せ遠回しに警告を受けたのだから。
「いやはや…怖いねー、若さってやつ?」
何に向けてという訳でなく、フランスはそう零す。
それから、アメリカが立ち去った後を目で追い、苦笑を浮かべた。
「ま、嘘は言ってないからな?」
けれど、イコール真実とは限らない。
「つーか、本当のこと知ったら…俺アイツに排除されちゃう訳?」
そう呟いて、空になった紙コップを先程アメリカがしたように屑箱に向け放つ。
それは僅かに届かずに、縁にあたった紙コップが宙を舞った。
作品名:【米英・仏英】Blaster 作家名:カナ