哀愁を笑え
久しぶりに思いっ切り露にされた、露骨な嫌悪というものを向けられてしまった。ディランに、カズヤが死にそうだ、と切迫したように言われた時、マークはただふうん、と、一言呟いただけだったから。
しかも若干上の空気味で。
「ねえ!マークはカズヤが心配じゃないの?」
アイマスクの向こうの瞳は見えなかったが、様子を見るにどうやら俺は地雷を踏んでしまったらしい。マークは一人、内心の苦い思いを噛み締めた。
「心配じゃない何て言ってない」
マークはゆっくりと口にした。
「嘘だよ!マークったら、全然心配してないじゃないか!」
ミーに分からないと思ってるの、とディランはこちらを真っすぐ見ながら言った。
思わず目を逸らす。悔しいけれど、それは当たっていたのだった。マークは一之瀬のことを、心配などしていなかった。いとも簡単にそのことがディランに見抜かれ、彼はだらだらと嫌な汗をかきそうになる。
「なんでディランにわかるんだよ」
「当たり前でしょ。ミーたち何年の付き合いだと思ってるの!」
「……ごめん」
思い返せばマークとディランはもうずっと一緒だった。フィディオやテレスの事だって他の人間に比べれば親しい仲ではあるが、彼等とはあくまで“国”が違った。それさえ、そしてなにもかも同じなディランに、マークが敵うはずはなかったのだった。
そのことを嫌に実感して、マークはもう一度口を開いた。
「俺は…カズヤは、俺達を、アスカを置いて行ったりしないって、俺は信じてる。
信じてるっていうか、言っても、根拠はないんだけれど」
「それって、キャプテンとして?」
「ああ。――多分それと、友人として」
本心だった。
「マークはずるい」
「は?」
全く意味が分からなかった。自分がなにかしただろうか、とマークは思った。
けれどそれは、次の一瞬で杞憂だった事に気づく。
「なんか、ミーだけ騒いで、ミー馬鹿みたいじゃないか…」
その言葉を聞いて、マークは思わず顔を少し綻ばせた。頭上を鳥が鳴いていた。
カズヤは大丈夫だろう。