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恋が僕を呪おうとも(臨帝/腐)

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 ※臨也信者な帝人

「折原さんはいつも、ひとりですよね」

 見渡せば他人。歩けばぶつかって、けれどその人間になにがあるのでもどうでもよくて。僕ら一介の高校生にすぎない浅はかな人生経験の中でも、顔見知りにも満たない人間はつまりいてもいなくても、変わりがない。たとえば明日、今池袋を歩いている人間のうちひとりが事故で死んだとする。それが、他人だとする。そうなれば僕は、僕以外の人間たちは、その知人でないかぎり命がひとつ消えたことにすら気付かない。たとえばたった今地球のどこかで、だれかが死んだとする。でもそんなこと僕には関係がない。つまりそういうことだった。人間を愛する折原さんが、彼らを希薄だと嘆く理由がそこにはあるのかもしれない。知らないけど。
 大多数が他人、否、認知すらできないほどに蔓延している人間という種族の、たった一握りの日本人国籍の、さらに狭く囲われた範囲の、僕らのいう他人はつまり池袋ですれ違う人たちのことをいう。今新宿を歩いてる人たちなんかはもう他人よりも以下だ。僕の目で見た狭い、けれど視認できるその視野までが精一杯の世界で、その中を歩く人間が他人で、そんな数の知れた彼らでさえ沸かない興味や関心だったりするのに。折原さんは人間を、愛しているという。僕には分からない次元で生きている人なんだとあらためて思う。
正臣たちと別れて、池袋の中心街から出て、そんな他人の姿さえなくなる家路についたその時。折原さんに声をかけられた。相変わらず、行動範囲の広い人だと考える。折原さんはいつもそうだ。ふらりと現われては僕を片手間に構って、勝手に満足して消える。折原さんは僕のそれまで付き合って、見てきた人間とはまったく違う世界の人だ。折原さんのいう言葉の意味は、たまに掴めずに困るけれど、折原さんは僕にそれを聞かせるために喋っているというよりも、そうして口に出すことで彼の中での整理を行っているんだと気付いた。折原さんの口はよく回る。折原さん自身が、それに振り回されている。
 今日もそんな感じで、一方的に喋り続ける折原さんに時折の相槌を入れながら、僕は聞いているような振りをして頭をがくがくと揺らして、まったくべつのことを考えていた。
 人間を愛しているらしい折原さん。その愛はきっと本物なんだろう。折原さんが人間について語るその表情はとても恍惚としていて、そしてなにか冷めていて、なす術もなくありのままだ。だから折原さんはその、愛する人間がどれほど死のうがどれほど生まれようが、喜びも悲しみも表すことはなしない。きっとどうでもいいんだとは分かっている。折原さんの人間という括りにどんな人間が入っても、折原さんは愛する人間を個体として考えているわけじゃない。その括りから成る、変えようのない本能的な人間――個体が集まり生まれるその集団そのものの人間性を、愛しているのだと。
 ようするにそれは人間ではないだろう。僕はそう思うんだけど、それを折原さんに言えるほど、折原さんのような豊富な人生経験があるわけじゃない。ただ漠然と生きてきて、だから気付けたというのもあるけど、折原さんは折原さんが掲げるその愛が、正しいとは1度だって主張しない。折原さんはつまりそういう人で、自分を永遠に客観視して、笑っている人。

「そうかな? 俺は今帝人くんと一緒にいるつもりだったんだけど、帝人くんはじゃあここにはいないってことになるのかな。幽霊? 帝人くんは幽霊ってことかなあ?」
「あ、えと、違います。そういう意味のひとりではなくて」

 折原さんの愛は、途方もない。人間を愛してる。個人ではなくて。人間らしい人間の集まりである人間を愛していて、ならそれは、偶像崇拝に当て嵌まるのではないかと僕は思う。偶像。愛を語る折原さんはまさしくそれだ。正しいかは知らない。僕だって、こうしてひとり頭の中で考えるこれについて、第三者の意見は求めていないし、ここには折原さんだって立ち入ることは許さない。折原さんもそうじゃないのかな。自分の考える愛や、それに殉ずるものすべて、だれかに理解をしてほしいとも、同意をしてほしいともなく。ただそれがそうであると思っているだけなのだ。もはやかぎりない人間の中に生まれひとりで、立ち尽くす世界の端っこでひとりで。
 折原さんはただ、折原さんで在り続けるためにそれを考えている。それはひどく孤独で、だから大多数の人間は歩み寄って自分を失って、折原さんは世界でたったひとり、人間として生きることにすべてを捧げている。世界の端っこはつまり、世界の真ん中ってことだけど。

「折原さんは孤高なんですよ」
「はは。それ褒めてるの?」
「僕は折原さんのことが大好きって意味です」
「それは、光栄だね。当然だけど」
「愛してるから、ですか」
「そ。帝人くんはよく分かってるね」
「理解はできませんけどね」
「それでいいんだよ。君が理解する必要はないし、愛は理解するものじゃない」
「折原さんそのものなんですね」

 そうかもしれないね。そうだといい。言いながら笑った折原さんはこのまま家に上がり込むつもりなんだろうか。だれも分からない折原さんの隣りを、こうして歩けているだけで僕は価値のある人間だと錯覚するのだからもう、ようするに至福の極みです、折原さん。