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臨帝/腐

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 ※臨也信者な帝人

 渇望、する。
 臨也さんの愛を。そして臨也さんの非日常を。非日常の中に呑まれる自分を、帝人は常に求めている。それは飢えに似ていた。治まらない食欲と同じだった。満足などない。もっとずっとさらに強いものがほしくなる。臨也さん臨也さん臨也さん。帝人はそれを焦がれる熱で呼んだ。臨也さん。愛すべき人だ。帝人の中心に立ち、そして帝人のすべてを支配した存在だ。臨也は笑う。落ちても尚帝人への興味の尽きない自分を笑う。そうして帝人に求められることに快楽を覚えているのも、分かっている。
 だから臨也は帝人を放し飼いにするのだ。監禁など生温い。それでは駄目だ。きっといつか帝人でなくなってしまう。帝人が帝人のままで帝人ではなくなること。臨也の目指した落下はそうだ。そして帝人はその通りを辿った。臨也は展開した過去を笑う。そしてそこからこれからの未来を思って笑う。臨也は完璧主義な男だ。そして帝人の中の、神である。

「臨也さん」

 帝人が臨也の名前を呼ぶ、声には至福と高揚と切望と焦躁が入り乱れ、それはそれはひどく美しい響きとなって臨也に届く。けれど臨也は振り向かない。帝人に名前を呼ばれる、そのこと自体が臨也にとって心地いいものだったからだ。そんな臨也は過去に1度、帝人が1日でどれだけ己の名前を呼ぶか、カウントしたことがある。しかし4時間経たぬうちに数が100を超えたことで満足してやめてしまった。そのうち臨也が反応してやったのは10回もない。あとはすべて背中で聞いて内心で揄しんでいた。反応を遅らせれば、そしてそれを重ねるほど帝人の声は耳に心地いいものとなる。
 臨也さん。臨也さん。帝人に呼ばれる名前ほど、魅力的なものはないと臨也は思う。己の名前など特別な価値を見出だすこともなく生きてきた23年間を、帝人がほんの数週間で塗り替えた。今では臨也は己の名前をひどく気に入っている。臨也さん。帝人が呼べば呼ぶほど、価値が上がる気がするのだ。
 だから反応のない臨也の、考えを知ってか知らずか帝人は、反応がもらえないからといってしょげることもなく、ただしばらくしたあとまた呼ぶのだ。エンドレス。会話はあまりない。けれど臨也も帝人も、苦には感じていない。むしろ両者とも今を満喫している。今こそが幸せであり、そして飽きぬうちに次へと進まなければ。

「臨也さん」
「…なんだい?」

 そして臨也は気まぐれに、あくまで気まぐれを装って帝人を振り返る。帝人は帝人のままだ。そして帝人ではなくなっていて、その青の大きな虹彩に己の笑みが映るのを見るたび、臨也の内でなにかがざわめく。なにか。なんだというのか。判別はしているのだ。判明はなによりも早く完了している。それは快楽であり、殺意であり、嗜虐であり、支配であり、独占であり、絶対だ。
 そしてそんな性根の歪みきった臨也の名を呼ぶ帝人の内に灯るすべての感情をも臨也本人が理解している。羨望であり、尊敬であり、信仰であり、狂信であり、なによりも渇望であった。帝人はそれとは気付いていないだろう。気付いていないからこそそこまでのことを露にする。ああ。かわいい。かわいい子だ。そしてあわれな子だ。なによりもあわれで愛しい子だ。臨也は考える自分にまた笑う。口許は常に笑みで歪んでいて、帝人はさらに臨也を神だと思うのだ。安いものではなく。侵スベカラズ。それが帝人の臨也であり、それが帝人を壊したのだが。

「臨也さん…」
「寂しいのかな? 寂しいんだろうね? でも言わなきゃ分かってあげないよ。言っても俺がそれをしてあげるかは分からないけどね。まあ、一応言ってみなよ帝人くん、もしかしたら君が今望んでることをしてあげるかもしれないよ?」
「分かってるんですか、臨也さん」
「俺は君のことならなんでも分かるよ。嬉しいだろう?」
「はい」

 帝人は、本当に本当に嬉しそうに頷いた。そして椅子に座る臨也へと手を伸ばす。臨也は動かずに笑っているだけ。帝人の瞳にはそうして踏ん反り返って座る臨也しか映っていない。けれど表情は恍惚としていた。それをじっと見る臨也の瞳にもまた、飢え始め渇望する帝人しか映っていない。

「だきしめてください」

 臨也の口端は限界まで吊り上がり――しかし黙ることをしらない唇よりも早く、帝人の望んだままに抱き締めてやる。否、帝人が倒れ込んできたのを受け止めてやったというほうが近いだろう。帝人はそれほどまでに限界だったのだ。当たり前といえば当たり前。臨也がああして反応するまでにすでに3時間近く、帝人のそうした呼び掛けの一切を無視していたのだから。
 けれど臨也の腕の中についに届いた帝人はそれだけで、もう満足なようだ。きつく抱き締めて目を閉じる。耳で臨也がくつくつと笑っているのを認識しながら、帝人はそれでも幸せを感じている。そして臨也も同じように。幸せ、を幸せと認識はしなかったが臨也の内に生まれ溢れ満ちる感覚はそうだった。臨也はそれを愛だと思う。間違いではないだろう。正解ではないだろう。
 ここはふたりだけの場所だ。地上にありながら閉鎖されたように静まり返り、それぞれの心臓の動きと微かな呼吸だけが響き、そしてそれを歪と称するにはふたりとも、そこに浸りすぎている。



作品名:臨帝/腐 作家名:o2pn