6月の花嫁
梅雨の合間の珍しく晴れた日曜日。
隣を歩いていた獄寺が、何かを見つけたらしい。
興味深そうに、少し離れた華やかな衣装を纏った男女の群れに
近付いて行った。
集まっている人々は皆が笑顔で、賑やかに中心に居る男女2人に
拍手をし、声を掛けている。
あぁ、これは…。
「結婚式か…。」
色とりどりの衣装を纏った群れに近寄っていた獄寺の隣に立つと、
ポツリと小さく呟いた。
「6月だからね。結婚式も多いんじゃない?」
「?何で6月だと結婚式が多いんだ?」
「昔から、6月の花嫁はジューン、ブライドって言われていてね。
6月に結婚したら幸せになれるんだって。」
「何で6月だと幸せになるんだ?7月に挙式したら、6月に結婚した奴
より幸せが少ないのか?」
「知らないよ、そんなの。昔からの言い伝えみたいなモノなんだから、
深く考えないの。」
「だってよ…。」
まだブツブツ言ってる獄寺は放って置いて、そろそろこの群れから
離れようと促す。
が、その時群れに居た女性達が甲高い声を上げながら喚いていると
思ったら、僕に向かって飛んでくるものがあった。
そんなモノにぶつかるような僕ではなく、目の前に飛んできた
ブーケを片手でキャッチした。
「………。」
反射的に取ってしまったけど、コレは花嫁のブーケで。
確か、これを受け取ったら次に結婚するだの、幸せになれるだの
何だのと言われているモノで。
つまりは女性達にとっては憧れのモノ(らしい)で。
フと周りを見回すと、ブーケを狙っていたらしい女性達が残念そうに
していたが、そのブーケを手にしているのが僕という並盛の秩序である
事にやっと気付いた何人かが、まるで死刑宣告をされた人間のように
笑顔のまま土気色の顔色になるという、何とも器用なマネをしていた。
まだ笑顔で居る者や、残念そうな声を上げている女性達は、並盛の住民
では無いのだろう。
そしてそんな女性達は、男である僕が手にしたブーケの行方を、
あわよくば自分達の誰かに譲らないものかと期待に満ちた目で
見つめていた。
「…獄寺。」
「お?何だ?」
「コレは君にあげる。」
「…は?」
手の中の小さなブーケを隣に居る獄寺に押付けて、群れから
離れる事にした。
自分達ではなく、隣にいた、またしても男である獄寺の手に
ブーケが渡った事に一瞬残念そうな声が多数上がっていたが、
一泊おいてから今度は獄寺に向かって拍手が沸いた。
「は?何だよコレ!雲雀!!待てっての!!!」
サッサと不快な群れから離れた僕を追いかけて、獄寺が走ってくるが、
その顔は真っ赤だった。
「あのさ…。雲雀。あの…。」
いつもと違って歯切れの悪い獄寺を見ながら、「何?」と素っ気無く
答えると、手の中のブーケを見ながら獄寺が居心地悪そうにして
いたが、「………グラッチェ。」と小さな、本当に小さな声で
呟いていた。
「へぇ。モノを貰って礼を言うなんて常識、君にもあったんだ?」
照れているのだろう、赤い頬をした獄寺に向かってわざとからかう様に
言えば、瞬時に先刻までのしおらしさを何処かに葬り去り、普段通り
の勢いを取り戻して僕に噛み付いてくる。
が、僕からしたらキャンキャンと吠えてくる小型犬にしか思えない。
少し喧しいが、この子はコレ位元気な方が良い。
そんな事を思いながら、予定より大分遅れてしまった町内の見回りを
再開すべく歩みを速めた。