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Just for fun

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 女の小さな手、その指先には、淡いペールピンクのマニキュアが、はみだすことなく、丁寧に塗られていて、古泉は、それを少しだけ嫌悪した。彼女が、どんな目的を抱えて、どんな気持ちで、こっちの時間軸へやってきたのかは、知らないけれど。小さな嫌悪感を抱いている、自分が、正しいのかそうでないのかは、彼にはもちろんわからない。けれど嫌なものは嫌で、どうしようもないことなので、古泉はそれについて考えるのを存外あっさりとあきらめた。ただ、目の前で、困ったように首をかしげて、微笑む彼女に対して、笑いかけてみせる。
「こっちは、僕の通学路なので、彼には会えませんよ」
「ええ、知ってます」
「それでは、僕に何かご用でも?」
「いいえ。特には」
 足をとめて、少しの距離をおいたまま、彼らは見つめあう。古泉は、自分の視線や表情や、口調なんかが、挑戦的にならないように、つとめなければ、と考えるけれど、でも一方で、どうでもいいか、と思ってもいる。自分のまだ知り得ない、未来のことをすべて見てきたうえで、彼女は、彼女にとっての過去であるそこに立っている。自分自身の存在している現在のために、たとえばミニチュアの電車のはしるレールを、好き勝手に動かす子どものような行為さえ、厭わない彼女のことを、古泉は、だれかのように、純粋無垢だとか、思ったりはしなかった。でも、彼女の行為は、彼女にとって正当なものである。それだけは理解していて、でも、理解と共感とは、まったく別のものだ。古泉は、何もいわずに、肩をすくめてみせた。
「それじゃあ、失礼させて頂きます。僕にも、やらなければならないことがあるので」
 困ったな、これじゃあ、まるで馬鹿みたいだ、と自覚しながらも、古泉は、どこか諦めにも似たなげやりな気持ちで微笑を皮肉っぽいものへと変えた。歩きだす。彼女はそこに立ち止まったままでいるので、彼は、すぐに彼女の前を通り過ぎることになった。
「古泉くん、」
 通り過ぎて、十メートルほどが過ぎたところで、未来からやってきた朝比奈みくるのさらに未来からやってきた、彼女が、声をかけた。古泉は一瞬どうしようか迷ったけれど、それでもやっぱり足をとめた。振り返ることはせずに、彼女に背を向けたまま、立ち止まる。
「古泉くん、私のこと、あんまり好きじゃないでしょう?」
「…どっちの、でしょうか」
「どっちも」
 彼はこたえなかった。
「だから、来たんです」
 いたいけないたずらをしてみせる少女のような声色で、彼女はそう言って、ほんの少しだけ笑った。それを聞いた古泉が、思わず、振り返る。すると、でも、さっきまでそこに存在していた女の影は、もうどこにも見えなかった。
 未来人も、どうやらずいぶん暇らしい、と彼は、呆れと困惑の入り混じったような表情で、もう一度、肩をすくめる。ひとり取り残された―――という表現は、ちょっとおかしいかもしれないけれど―――見慣れた通学路のまんなかで。やれやれだ。
 
作品名:Just for fun 作家名:浜田