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その瞳は確信犯

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俺の授業はサボるなよ、があいつの口癖だった。他の授業はいいのかよ、と言うがあいつは笑うだけだった。本当にお前は人としても大分よろしくない部類に入るが、それ以前に教師として駄目だと思う。だけど銀時は教師で俺の担任で、俺はその生徒という立場は紛れもない事実だった。世も末である。そんなどうでもいい口約束をなんだかんだで俺は今日も守っている。あぁ本当に、世も末だ。

一時間目から律儀に授業を受ける。教室には銀時が教科書を朗読する声が響いていた。銀時はスリッパをペタペタ言わせながら教室内を巡回し、寝ている頭を片っ端から叩いている。殴るのは教師としてどうかと思うが、こうしてみると銀時はきちんと仕事しているように見えた。例え常に死んだような目でやる気のない面をしていても、クラスの日誌をちゃんと毎日読んでいる男だ。やらなきゃ食えない、と以前言っていたが、俺には銀時がそれなりに仕事を好いているように思えた。

俺は頬杖をつきながら教科書を眺める。銀時の声に乗って読む文章は他の授業の活字とは違って見える。外国人の声が聞こえてくる英語の教科書や頭の固そうな男の声がする数学の教科書は、つまらない。国語の教科書だってずっとつまらないと思っていた。銀時の授業を聞くまでは。それは彼が行う授業が面白いからではない。授業自体は前と同じで楽しいと感じたことはない。多分聞こえてくる声が銀時だからだ、とまで考えて慌てて思考を止めた。どこの恋する少女だ、俺は。何だかばつが悪くなって教科書から目を離すと、運悪く巡回中の銀時と目が合ってしまった。しかし俺が視線を外すより先に彼の方が視線を教科書に戻した。それは至極普通の動作で。変に意識してしまった自分が恥ずかしいと思ったくらいだ。

朗読が終了し、銀時が教卓に戻ると奴は突然手を叩き始めた。寝ていた連中が驚いて身体を起こす。そんな教室内をぐるりと見渡し、満足そうに笑う。この笑みに嫌な予感を覚えたのは多分俺だけではないだろう。

「よーし、教科書しまえ~今読んだとこの漢字テストすっから」

テスト、という言葉を聞くと大抵の人間はなぜかテンションが上がる。悲鳴に近い声が教室中に飛び交った。教科書を出していなかった人間が慌てて今から開こうとしていたが、目ざとい銀時に止められていた。いつもは死んだような目をしている銀時も、生徒の嫌そうな顔を見るとたちまち生き生きした目になる。鼻歌なんて歌いながら解答用紙を配りだした教師に、生徒はぶつぶつと文句を言い続けていた。さっき寝ていたのが11人だから、今日は11問ね。などと言われてさらに教室内は湧いた。銀時は本当に人をからかうのが好きなのか、人に嫌われるのが好きなのか、そういうことばかり言う。だから今更俺が何を言ってもあいつは喜ぶだけで、俺にとっては全くつまらない男である。逆に褒めたり優しいことを言ったりしたほうがいいのだろうか、と考えたこともあるが実行したことはない。自分の口からそんな甘ったるい言葉が出るなんて、想像しただけで気持ち悪くて眉間に皺が寄る。そうこうしている間に、一番後ろの席である自分のところにも解答用紙が回ってきた。解答用紙と言ってもただの白い小さな紙だったが。一番上に名前を書いたところで、銀時が問題を出した。

三問目あたりでふと周りを見回してみた。皆がみんな、面白いくらい机にかじりついている。いつもはあれほど私語でうるさい教室に今は鉛筆の走る音しか聞こえなくて、何だか新鮮だった。四問目ぇ~と、いやに間延びした銀時の声が聞こえてくる。思わず奴の方を見て、思考が止まった。銀時はこっちを見ていた。また逸らされるかと思ったが、今度は射抜くようにじぃっと俺を見ている。皆が下を向いて必死で解答している中、俺だけが顔を上げている。目を逸らすことができなかった。口の端をゆっくりと上げて、笑った銀時はとても悪い顔をしていた。また、嫌な予感。

「すき」

聞こえてきた声に何人かが顔を上げる。俺は慌てて俯いた。心臓が馬鹿みたいに騒いでいる。どっちのすき~?と誰かが言うと至って普通に隙間のすき~と言ってのけた銀時を殴ってやりたかった。信じられない、アホかあいつは、やばいこの紙に死ねとか書いてやりたい!!俺は今この瞬間、人は恥ずかしさで死ねるということを知った。顔が熱くて仕様がない。ついでに泣けてきた。五問目ぇ~と言う声が僅かに上ずっているのに気付いたとき、俺は四問目に「嫌い」と書いていた。

本当にお前の行動は理解が出来ない。くだらないお勉強なんかよりもそれを教えて欲しいくらいだ。いっそのこと、今この場で優等生のように真っ直ぐ手を上げて質問してみようか?


「先生、どうしてあなたはそんな人間なのですか」
作品名:その瞳は確信犯 作家名:しつ