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吸血鬼パラ『Black blood vampire』サンプル

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 血が今にも流れ落ちてしまいそうな事が何よりの優先事項だ。血は重力に逆らえず、地球上の他の水分と同じく今にも地へ落ちようとしていた。
「これが欲しいあるか」
 菊は無意識に首を縦に振った。
「なら口を開けるある」
 操られるように口を開いた菊へ、血の滴が垂らされた。
 かすかに甘く、それよりも深く、強い味が菊の咥内を広がる。喉にまで流れたところで砂漠で水を飲んだかのような心地に陥った。そう、正しく感覚としてはそれが正しい。
 菊は夢中で耀の指を掴んだ。
 耀は振り払うことをしない。好きにさせ、指先に菊がより近くなるよう手を傾ける。
 菊はその指にしゃぶりついた。耀の指先から菊の口へ血液が流れ込んでいく。
「噛み千切るんじゃ、ねぇあるよ…」
 若干苦しそうにしながらも、耀は噛み殺した笑い声を出した。
 菊は気にすることなく耀の細い指から血を吸い上げる。こくこくと嚥下する音は放っておけば途切れることもないだろう。
 耀は乾ききっていない菊の口の周りの血液を拭った。恐らく街には下りていない。森の中で野生の動物でも捕まえたのだろう。動物の血は非常用でしか使わない。何故なら人以外の血は精力を得るには不十分で不味いからだ。匂いも良くない。
 菊が必死で啜るこの血液はどんな味がするのだろう。耀は口にしたことがなかったからわからなかった。
 だがしかしこれは人間と同じ、もしくは個体によってはそれ以上の力を得ることの出来る『食物』だ。
 血で腹を満たさねば、人間と同じ食事をしても美味と感じることはない。むしろ何を口にしても砂を噛むようで吐き出しそうになる。
 飢餓は理性を失わせる。
 耀は空いている指で片袖を捲くった。
「足りないある?」
 す、と菊の前に白磁色の腕を晒した。
 菊はぎらりと光る目を上目遣いに見上げ、腕に釘付けになった。指から口は離さぬまま。
「ほら。好きなだけ飲んで良いあるよ」
 やっと指を離した菊は、口を大きく開く。思考は耀の腕に青く浮かぶ血管でいっぱいなことだろう。指には赤い噛み跡が残っていた。
 菊は耀の腕を両手で掴み、尖った牙を皮膚に食い込ませた。





「しょうがない。俺達は吸血鬼なのに、菊は人間から血が飲めない」
 香の淡々とした声に、勇洙は口を尖らせた。
「おかしいんだぜ。望まずに吸血鬼になったからって…」
 し、と香が指を突きつける。黙れ、という意思表示だった。
「俺たちも街で食事。今夜は満月なんだから」