オフィスラブ
『紀田~、へるぷ~…』
今日の分の仕事を片付け家路に付く準備をしていると、自分のデスクから内線コールが鳴り響く。
受話器を取って応答してみれば、それは少し離れたところに席を置く六条千景だった。
「なんでわざわざ内線使ってんですか、六条さん…」
まぁ、わかりきったことだが・・・。
ついっと社内を見渡すと入口近くに女性社員が数名、私服の状態で立っていた。
つまり、彼女達とデートするから代わりに仕事を片付けて欲しい、ということだ。しかも仕事を押し付けたとバレないように。
俺はハァとため息をついて周りに聞こえないように小声で受話器に話しかけた。
「いいっすけど、週末は空けといて下さいね」
『OK、OK!食事でもゲーセンでも何でも奢ってやるからっ』
「いえ、出掛けませんけど」
『は?』
「ていうか出掛けられないと思います、立てなくて」
そこまで言うと俺の考えていることがようやく伝わったのか、千景さんはガタタッと大きな音を立てて立ち上がり顔を真っ赤にして俺を見た。
その間の抜けた顔がなんだか可愛くてフヒッと笑うと、からかわれたと思ったのか「ばかやろおおおおっ!!」と叫んで待っていた女の子達を置いて走り去っていく。
あぁ、本当可愛い人だなぁ…。
怒りと羞恥で頬を赤く染めた千景さんの顔を思い浮かべながら、何事もなかったように彼の席に着く。
思いのほか仕事は残っていたが週末のことを思えばなんてことない。
「よしっ、やったるぜー!」
そうして目に付いた物から手をつける。結局家に帰ったのは日付が変わる頃だった。