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ハーモニクス(7/18 青春カップ2発行本サンプル)

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一人よりは仲間がいたほうが答えやすいだろうとふまれたのかもしれないが、グランが隣にいることは、逆に私の口を重くした。感情を排して言葉すくなに、必要最低限のこと以外に関しては無知をよそおって話さなかった。グランのほうは聞かれるがまま、反省の色さえみせながら従順に質問にこたえていた。私は彼の様子にしばしば苛立ったが、さすがに立場をわきまえて非難を口には出さなかった。

最後に私たちは、プロミネンスの居場所について心当たりを聞かれた。その時点でプロミネンスは唯一まだ保護されずに、樹海のどこかへひそんでいたのだった。バーンには妙に鼻のきくところがあったから、事態を知らずとも持ち前の野生の勘で保護されることを避け得ていたのかもしれない。

基地まわりの樹海は私たちにとってある程度なじみのある場所だった。だから思い当たる行き先がいくつかないわけではなかった。でも私はわからないと口をつぐんだ。むろんあれだけの人数で動いていれば捕まるのは時間の問題だったし、警察をかわし続けて何ができるわけでもない。それでも私は、現実的ではないと知っても、バーンたちがどこかへ逃げ切ればいいと思った。どこへかは、皆目見当もつかなかったのだけれども。

私がそう願っていたにもかかわらず、グランは彼らが立ち寄りそうなところ、木立が途切れて小さな空き地になっている場所や、自力で下りられる水辺の近くなどを次々に可能性として示した。私は地図の上につけられていく赤い印を歯噛みしたい気持ちで見つめていた。

聞きたいことを全て聞き終えた大人たちが部屋から出ていき、休憩時間が与えられると私はグランに低く吐き捨てた。

「敗北の果てに仲間を売るか。大人の言うなりになって……。きみになんの権利がある。彼らは自分たちの意思で出ていったのだから、せめて放っておいてやればいいだろう」
「いくら地の利があるからといって、子供だけであんなところを長期間さまよっていたら危険だ。それに、逃げ続けてもどうにもならない。分が悪くなるだけじゃないか。もう、これ以上意地をはっても仕方がないんだよ」
「仕方ないと決めるのは、きみではなくて彼らじゃないのか」
「それをいったら、彼らを逃がしたいというのも、きみのエゴかもしれないだろう?」

グランは平坦な目でゆっくり呟き、空いていたパイプ椅子に腰掛けた。そうして、まだユニフォームを着たままだった私に、着替えないの? と、問いかけてきた。彼はもう髪を下ろし、持ってきてもらった私服に着替えていた。私は彼がこんな短い期間でグランを手離してしまったことに、心底腹がたった。誰よりも認められ、また認められるためにあらゆる手段をためらわなかった彼が、そんなふうになることは許さないと思った。私はグランを睨みすえると、黙って部屋を出ようとした。

「……俺たちが敗北したことに関しては、」
「もういい。失礼するよ」

あとを追って背後からかけられた言葉をさえぎって、勢いよくドアを閉める。嫌な汗が背中をつたった。私は彼の謝罪など聞きたくなかったし、彼が頭を下げるところなど見たくはなかった。たとえ父が私たちに頭を下げても、彼だけは下げてはいけなかった。私たちが彼に、明確に勝利するまでは。

うまく行方をくらましていたプロミネンスは、その日の夕方には保護され搬送されてきた。私は予想よりひどく脱力して、そんな自分のことを嘲笑もした。意気消沈した仲間をたずさえて戻ってきたバーンは、反抗的な囚人のようだった。いったいどういう攻防を繰り広げたのは知らないが、泥で汚れた服のあちこちにかぎ裂きを作り、怪我もしていたのか、膝や頬には包帯やガーゼをあてられていた。大方ろくに事情も知らず、追われたから全力で逃げたのだろうと思う。彼はそういう人間だ。私は落胆を払いのけるように、彼を皮肉った。

「ずいぶん早かったじゃないか。きみは、もうしばらく堪えるかと思っていたけどね」
「即行で捕まってた奴がよく言うよ。あれだけ行く場所全部押さえられて、総出で上から照らし回られて、見つからないわけないだろうが。殺人犯にでもなった気分だったぜ」
「それがどうも、我々は加害者というよりは被害者にあたるらしいよ。驚くだろう」
「くだらねえな」

いまいましそうに目を細めたバーンは、そう突っぱねると唇をゆがめた。私は彼の腕にはめられたなかば千切れかけているキャプテンマークを見やり、彼はいつユニフォームを脱ぐのだろうと思う。私はいつ脱いだらいいのだろうと思う。そして、脱いだら何者になるのだろう。私たちが最後に逆らって、離反して手に入れたものは自由でも胸のすくような思いでもなかった。認められないまま第三者に幕を下ろされた現実だった。それでも、逃げないほうが良かったなどとは思いたくなかった。

新しい養護施設へ入れられて空白の数ヶ月を過ごした後に、私たちはFFIの韓国チームへ代表選手候補としてスカウトされることになる。これは、チャンスなのだと思う。閉ざされたどこかに道を繋げるためのチャンスだ。

富士を後方に残して黙々と飛び続ける飛行機のシートに身を沈め、私はようやくめぐってきた貴重な機会に思いをはせる。イメージトレーニングのためにまだ見ぬ広いグラウンドを思い描こうとすると、瞑ったまぶたの裏にはなぜか暗い色の木立の影がよぎった。私の視界の一部は、そうやっていまだに樹海の奥深くをさまようことがある。おそろしくはっきりと、緑や土の匂いが感じとれそうなほど近くに。

馬鹿げたことだと知ってはいるが、あのまま逃げ切っていたら、と、時おり思うのだ。そうしたら少なくとも、私はまだ、ダイヤモンドダストというチームのキャプテンではあったのだろう。