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「おいちゃんとしては、もうちょっと怖がって欲しいんだけどなぁ」
「……はい?」


ヘラヘラと笑いながら、その男は呟いた。
声が落とされた先には学生服を着た童顔の少年。
ただでさえ大きな瞳を真ん丸と瞬かせ、自身に声をかけた中年の男を意味が分からないといった様子で見つめている。
対する男はそんな少年の様子は気にも留めていないのか、派手な意匠が施された杖を手の中で遊ばせている。
学生服の少年、竜ヶ峰帝人はそんな男…赤林の様子に溜息を一つ落とした。
――相変わらずよく分からない人だ。
学校帰り、あれよあれよと言う間に赤林が拠点とする事務所に連れて来られたかと思うと、赤林はへらりと笑いながら一言「おいちゃんとお茶でもしようや」と言い放った。
説明不足もいい所である。
だが本当にそれが目的らしく、事実今の今まで何もしていない。
しているとしたら意味のない言葉の応答のみ、所謂世間話だ。
一般的に考えてただの一学生がヤクザの幹部と世間話をしている時点で非日常的なのだが、赤林とひょんなことから知り合いになり、尚且つ会う回数もそこそこ重ねている帝人からしてみれば既に日常と化している為に、何の疑問も湧いてこない。
何故平凡な自分を赤林が気にかけるのかは疑問だが。
そんな食えない男との当たり障りのない会話をしている中、当の赤林が呟いたのが冒頭の台詞だ。
「…怖がる、ですか?」
何を?と言外に含めつつ帝人が問えば、赤林は色眼鏡の奥の目を細めて緩く笑った。
「うん、そう。だってね帝人君、君こんな所に連れて来られてんのに警戒心殆どないでしょ?だからおいちゃんは心配なんだよ」
「……………はぁ。というかまず何で"こんな所"なんですか。ここは赤林さんの事務所じゃないんですか?」
「いや、まぁそうなんだけどね」
「それとも何か警戒心を出す必要が?」
「うーん」
帝人の言葉に赤林は唸ると、杖を握っていない方の手を顎に当てて、考え込む仕草をした。
ただしその顔はヘラヘラと笑ったままだが。
「信用されてるってことなんだけど、なんだかなぁ」
「…………?」
呟かれた言葉に首を傾げる帝人。
赤林の言わんとしている事が分からず、思わず眉根が寄る。
分からないのなら直接訊けばいいのだが、訳の分からない感情がそれを邪魔して何も言葉が出てこない。
――分からない。赤林さんが何を言いたいのか。
それとも自分が彼の言葉をしっかりと理解していないだけなのだろうか。
赤林の言葉を待つ中、そんな自問自答を繰り返せば、知らず知らずの内に顔が苦しげに歪んだ。
自分でも消化し切れないもやもやとした気持ちを胸の奥に感じつつ、帝人は顔を伏せようとした。
が、しかし急に伸びてきた大きな掌がそれを阻む。
「…っ」
「おっと、ごめんごめん。そういう顔をさせるつもりじゃなかったんだけどねぇ」
「赤林…さん」
そろりと頬を撫でながら、赤林は困ったように笑った。
あまりにその手つきと声が優しく、されるがままになっている帝人に、彼は苦笑混じりに口を開いた。
「いやぁ、ね。ほら、今まで帝人君と会う時って大体がお店とかそういう所ばっかだったでしょ」
「え、ええ…そうですね」
「そういう所ってどれだけお客さん少なくても、誰かしらいるじゃない」
「…そうですね」
「じゃあ、今は?」
「え」
思わず気の抜けた声が出た。
―ええっと…
帝人が考えている間に赤林は片手で色眼鏡を取ると、その手を帝人の腰に添えた。
そしてそのままゆっくりと引き寄せ、帝人との距離を詰める。
あっという間の出来事に帝人が目を白黒させていると、色眼鏡がなくなった事によって近くなった赤林の両眼が帝人の目を覗き込んだ。
「で、今は?」
「ええ、と。…ふ、二人…だけですね」
多少どもりながらも何とか答えると、その答えに満足したのか赤林はにんまりと笑みを浮かべた。
「うん、そうだね。二人きりだ。こんなおいちゃんと、ね」
「………」
弧を描く口元から吐き出される言葉に、帝人は何も言えなかった。言えなくなった。
自身を覗き込む男の目に情欲が垣間見えたからだ。
その感情を見つけた途端、粟立つ肌に顔が火照り、目頭が熱くなった。
「……っ」
恐らく赤くなっているだろう自分の顔を思い、俯こうとするが、添えられた手がそれを許さない。
縋るように赤林を見つめるが、赤林は緩く笑ったまま何も言わず、腰に回した手に軽く力を篭めた。
その際、宿るはずない義眼の右目にも欲が覗いたように見え、帝人は更に顔を赤くした。
「帝人君、おいちゃんはね、男なんだよ」
「分かって、ます。それと僕も男です」
「うん、それは分かってる。分かってるんだけど、ね。こういうのって理屈じゃないじゃない」
その瞬間、赤林の目の奥に何かを懐かしんでいるかのような、悲しんでいるかのような悲愴感が生まれたが、それも一瞬のことで次の瞬きの後にはもう目の前の少年に向ける欲しか残っていなかった。
「…だから、こんなおいちゃんといるのに無防備なのはいけないよ。危ない」
「…そ、れって…」
添えられた掌が熱い。
顔から溢れた熱が体全体に伝染し、四肢をじわりじわりと侵食していく。
帝人はどうにもならない熱に困惑し、縋るように赤林の派手な柄のスーツを握り締めた。
その様子に赤林はくすりと小さく笑い声を零すと、更に顔を近づける。
お互いの口が触れ合う寸前、赤林は低く、だが楽しそうに呟いた。
「うん、そう。警戒してって事」
帝人の声は飲み込まれ、静寂の空間に溶けた。





作品名:頂きます。 作家名:鷲垣