砂糖がこぼれる
途端胸のうちに沸いてきたもやもやした思いに辟易する。つまらない嫉妬だ。埋められない年月を過去の人々を羨んだってどうにもならないのに。ましてやそんな感情をぶつけても迷惑なだけだ。きっと困らせる。
「…どうした?」
見た目やその言動と反して。感情の機微に敏いひとだ。誤魔化しきれるとも思えなかったけれど、なんでもないです、と首を振る。弾みで眦からぼろりと涙が零れた。びっくりしてぱちぱちと瞬きを繰り返す。その度にぼろぼろと零れる雫。止まらない。なんだこれ、と目元を擦ろうとした手を大きな掌で柔らかく包まれた。かわりに厚く熱い舌で溢れる雫を浚われる。眦に頬に鼻先に。宥めるように音を立てて唇を落とされて。仕上げとばかりにこつりと額をあわせて至近距離での優しい微笑み。
「帝人」
名前を呼ばれるだけであふれ出てくる何かで胸がいっぱいになって苦しい。
もやもやした何かは押し出されてどこかへ消えてしまった。