なにがしたいんですか!
帝人はのろのろと腕を上げて手の甲で口元を拭う。今更ながら顔に血がのぼってくるのを感じる。悔しい。何なんだ。なんでこんなことするんだ。どうしてあんたは顔色一つ変えていないんだ。こっちはこんなにいっぱいいっぱいなのに!
「……臨也さん…」
「なに?帝人くん」
「なにか、言うことはありませんか?」
「帝人くん、可愛いね」
その台詞が馬鹿にするでもなく、さらりと普通に出てくるところにまた腹が立つ。
「いったい、なにがしたいんですか」
喉から搾り出すように呟いた帝人の言葉に、臨也は口角を上げて目を眇める。
にこ、と擬音が出そうな絵に描いたような笑い顔だった。
「強いて言うなら、恋、かな」
鼻先が掠めそうなほど近づいたかと思うと、唐突に遠ざかった顔にはひどく楽しげな笑みが浮かぶ。スキップでもしだしそうな軽やかな足取りでくるりと一回転。そうして恭しげに両の手を取られる。芝居がかった仕草で帝人の指先に唇を落とし、そのまま上目遣いで赤い瞳が見上げてくる。
「俺は君と恋愛がしたんだよ。竜ヶ峰帝人くん」
作品名:なにがしたいんですか! 作家名:長谷川桐子