臨帝小ネタ集:11/11追加
臨也さんが風邪をひいたので
臨也さんでも風邪ひくんですね。心配そうな言葉とは裏腹に珍獣でも見る目で彼は言った。動物園のパンダやアルパカに知性と理性と思考があったらこんな気分なのだろうかと、普段であれば考えもしないようなことが脳内をかすめていく。彼はどうにも「折原臨也」に夢を見ている部分がある。実際は年に一度二度くらいは風邪をひく、その程度には普通の人間なのだが。
「君はたまに、俺を人間扱いしないねぇ」
告げたところで彼は首を傾げるだけ。何を言っているんだろうと不思議そうに。帝人の、自身の歪みに無自覚なところは、日常で見せる平凡で平穏な気性とのギャップも込みで好ましい。
「ま、今日は帰ったら? 俺は見ての通りだし何も面白いことはない。それに君の免疫機能って貧弱そうだからきっと風邪うつるよ」
そう言うと、今度は眉を顰められた。幾分不愉快そうに。彼は貧弱呼ばわり程度で機嫌を損ねる精神構造はしていないから(むしろ事実として受け止め、そのくせ誤魔化すように笑うのが彼の常だ)別の部分で引っかかったのだろう。どこだろうかと回転が落ち気味の頭でぼんやりと考える。
「僕は、面白いって理由だけで臨也さんと一緒にいるわけじゃないです」
「そうなんだ」
「……そうなんです。だから、その」
「うん」
「看病くらい、させてほしいんですけど」
眉を顰めたまま視線は合わせず、怒っているような拗ねているような、そんな表情。珍獣を見る目はもう消えた。相変わらず切り替えが早い、というよりも唐突。折原臨也は五秒毎に信念が変わる、などと評されたりもするが、帝人だって相当だ。電気のオンオフを切り替えるみたいに簡単にあっけなく日常の顔と非日常の顔が入れ替わる。ぱちりぱちり。
「えっと、人がいると落ち着かないとかなら帰りますけど、迷惑でないのなら使ってください」
「ありがとう?」
「なんで疑問形なんです」
「使ってくれと言われても特に頼みたいこともないし、けど君のそれ一応好意みたいだから突っぱねるのも可哀想かなって」
「同情がほしいわけじゃありません。邪魔なら帰ります」
「可哀想だと思われるくらいの好意は抱かれてるんだって解釈はできないの? ああ、邪魔じゃないから、君が体調崩さない程度にその辺にいてよ」
そうしてあたまいたいと呟いて目を閉じる。あとはもう帝人の好きにすればいい。少しばかり戸惑った空気の後、そっと額を撫でてきた指が気持ちよかった。
作品名:臨帝小ネタ集:11/11追加 作家名:ゆずき