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長谷川桐子
長谷川桐子
novelistID. 12267
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共時性

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池袋を少しだけ離れて、二人は砂利が敷かれた道を並んで歩いていた。
遠くで野球をしているらしい、金属音や喚声。犬の散歩をしている老人。草の匂いのする風。優しい日差し。
のどかだなぁ、と帝人は思った。住所の上ではここもかろうじて東京都のはずだけれど、池袋とはだいぶ異なる。どちらかというと帝人の実家のほうに近い空気だ。
傍らで歩く人の雰囲気も、どことなく普段よりも柔らかい。ここに彼の天敵は居ないことはもとより、そのバーテン服を指差しその名をはやし立てられることもないから、なのかもしれない。

「少し降りてみるか」

銜えていた煙草を携帯灰皿に押し付けながらそう言われ、はいと答えて後に続く。久しぶりに土の地面を歩くなあ、と思っていると不意に手を引かれた。しずおさん、と。困ったようにその名を呼べば「どうせだれも気にしていやしないだろう」と返されてしまった。掴むというよりは包む、といったほうが近い優しい拘束は振りほどくことなど容易いけれど、そんなふうに言われてしまっては。帝人にできることといえばその手のひらをきゅうと握りかえすことだけだった。

並んで川面を眺めながら、ちらりと傍らの人を見上げる。煙草の銜えられていない唇に、視線が吸い寄せられて。ああ、キス、したいなあ…と思う。しかしながら、近くに人気はないとはいえ、ここは屋外で今は真昼間だ。帝人にも人並みの(もしくはそれ以上の)羞恥心はあるし。非日常に関する以外部分ではその思考はひどく常識的だ。で、あるからして喉元まで出かかった「少し屈んでください」という言葉はそのまま伝えられることなく飲み込まれてしまった。……それなのに。

ばちり、と視線がかち合った。と思った次の瞬間には、その端正な顔は帝人のすぐ間近にあった。あ、と思わず開いてしまった唇を食むようにちゅ、とリップ音をたてて触れた柔らかな接触はほんの一瞬。
次いで頬に上る熱に耐えかねて面を伏せれば、頭上に降ってきた手のひらがわしゃわしゃと髪を撫ぜる。

「どうして……」
「あ?」
「どうして、わかったんですか…」

キスしたいって思ったこと。羞恥のあまり尻すぼみになり、後半はほとんど風に流れていきそうな帝人の呟きを余さず拾った静雄は笑いながら言う。「なんだお前もしたかったのか」と。

そういえば彼は思うままに行動するひとであったのだと思い出し。同じときに同じ気持ちを抱いたことが嬉しくて。帝人もまた、頬を染めたまま微笑んだ。


少年の唇に、本日二度目のくちづけが降ってくるまで、あと―――
作品名:共時性 作家名:長谷川桐子