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となりの臨也さん

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その日、俺は暇を持て余していた。

春休み最後の日曜日。
いつもなら休日は駅近くの人通りがよく見える喫茶店なんかで人間観察をしているのだが、朝早く出かけて行った妹達の「今日届く荷物を今日中に絶対欲しい」という言葉によって家に縛り付けられることになった。
荷物が届いてしまえばどこへ行こうと勝手になるわけだが、それがなかなか届かない。
時間指定もしていないから届くまでどこかへ、というわけにもいかない。
そんなわけで俺はどうすることもできずに暇を持て余して、居間にあるソファーに寝転がっていた。


ピンポーン


どう暇を潰そうかとソファーで何度目かの寝返りを打ったとき、インターフォンが鳴り響く。
荷物だっ!!と、思って飛び起きたがすぐにハッとする。
俺の住むこのマンションはエントランスにオートロックのドアがあって、中からか専用の鍵を使わなければ開けることはできない。
そしてエントランスの呼出音と玄関の呼出音とは別の音が鳴るようになっている。
今鳴ったのは玄関のものだ。
荷物が届いたのであればエントランスの呼出音がなるはず。
他の部屋に届ける荷物があったのかもしれないが、そうだとしても電話が先に来るはずだ。
今のところ自宅の固定電話が音を鳴らす気配はない。
妹達は通販で買い物するとき安全の為だとかで俺の携帯番号を使うが、そちらも変化無い。
と、いうことは別の何者かが訪ねてきたということだ。


「はいはーい、今出ますよーっと」


せめてもの暇つぶしになればいい、そんな気持ちで玄関を開けるとそこには一人の女性が立っていた。
歳は20代後半、美人の部類に入る顔だがちょっとキツイ目つきをしている。
スーツを着ているところからみてバリバリのキャリアウーマンという感じだった。


「あら、あの子達はいないの?」


どうやら女の目的は妹達だったようだ。
出かけたことを告げると少し思案した後に「まぁ、いいわ」と鍵を俺に押し付けた。


「ウチの子が風邪で寝込んでいるんだけど、これから出掛けなきゃならないのよ。いつ帰れるかわからないし、少なくとも夕飯までには帰れそうもないからあなたに任せるわ。部屋は隣よ」


子持ちだったのかっ!
・・・じゃなくて、無用心にも程があるっ!!
いくら妹達と知合いだからといって、今初めて会った人間に自分の子供を任せるなんて・・・。
こんな面白い人間が近くに住んでいたなんてっ!!
あまりの面白さに頬を緩ませていると目の前の女の顔がスッと怒りに染まる。


「・・・言っておくけど、私の帝人を泣かせたらただじゃおかないわよ」


この女・・・他人に我が子を任せる無責任な奴かと思いきや、ハンパ無い愛情を傾けてるな。
それこそ異常なまでに・・・これはますます面白い。


「御心配なく、妹達で子供の面倒なら見慣れてますから」


先ほどと変わって好青年といった感じの笑顔をして見せると、その豹変っぷりを怪しく思ったのか女は余計に顔を歪める。
しかし腕時計で時間を確認すると、ため息を一つ吐いて「任せたわ」と足早に去っていった。
俺はそのまま隣の部屋へと向かい表札を確認する。


【竜ヶ峰】


つい先日、子供が来良学園大学付属小学校に入学するとかで引っ越してきたばかりの、確か3人家族。
情報はあったが顔はまだ見たことがなかった。
その母親に今会えて、更に子供まで見れるなんて・・・今日は良い日だっ!
あの親が育てた子供はどんな風に育つんだろう?
母親並の異常性を持ち合わせているのか、はたまた普通の子なのか。
考えるだけでワクワクする。

そうして俺はドアの鍵を開けた・・・・・・
作品名:となりの臨也さん 作家名:朱羽りん