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小鳥遊・伊波で自転車二人乗り

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「今日は楽しかったですね」
「うん。色んなお店に行ったしね」

 日が暮れてすっかり暗くなった、宗太君と電車に乗って隣街までお出かけをした帰り。
 最寄の駅に着いて改札を出た私達は今日の感想を話していた。
 何となく帰りを切り出すのが名残惜しくてそのままいたんだと思う。
 夜も遅くなってきているのを心配した宗太君は私に気を遣ってくれた。

「そう言えばまひるさん、お時間の方は大丈夫ですか?」
「うん。今日はお母さん、お父さんのところに行ってるから家に帰っても一人だし」
「そうですか」
「気を遣ってくれてありがとう。宗太君は大丈夫なの?」
「うちも珍しく誰もいないんです」
「そっか。お互い一人同士だね」

 一緒にいたいけど気を遣って尋ねてみたものの家に帰っても一人のようだし、家で一人で留守番をさせるのは危ない。
 このままここでずっと話をしているわけにはいかないし、かと言って今からどこかに行くのもまずい。
 そんな事を考えているんだろうな。
 せっかく今日はお互い一人なんだし、私も出来ればまだまだ一緒にいたい。

「……まひるさんさえよければ俺の家に来ませんか?」
「え? いいの?」
「はい。俺はいいですよ。まだ話足りませんし」
「じゃあ御言葉に甘えさせてもらおうかな」
「ありがとうございます。俺、自転車で来ているので取ってきますね」

 宗太君の家か……ちょっと予想外だったけどまだ一緒にいたいって願いが叶っちゃった。
 付き合い始めてから今日みたいに帰りに誘われて行った事は何回もあるけど、誰もいないのは初めてだから逆に緊張するなぁ。
 誰もいない家に二人きりか……つまり、そういう事……なのかな?
 いやいや! 宗太君も話がしたいって言ってたし!
 でも男の人が夜に誰もいない家に誘うって、そういう事だよね?
 ああー! 意識したら緊張してきた!

「おまたせしました、ってどうしたんですか? 顔色が変ですよ?」
「ひぃえ!? うん! 待ってないよ! 行こっか!」
「? そうですか? それじゃあ行きましょうか。あ、荷物はカゴに入れちゃってください」
「ありがと……」

 変な想像をしている時に戻ってきた宗太君に変な目で見られながら買った服をカゴに入れる。
 こういう気配りがさりげなく出来るのは、さすが女家族で生きてきたんだなと思う。
 自転車を牽いているんだし、ちょっと重い物は自分で持とう。
 これが私なりの精一杯の気配り。

「まひるさん、そっちも貸してください」
「え、いいよ。自分で持つ」
「それ重いでしょう。ほら」


 その気配りも宗太君の前では簡単に見破られる程度のものみたい……



      ************************



「ここら辺でいいかな。はい、後ろに乗ってください」
「いい、のかな。お邪魔します」
「ここからはあまり人通りがないですから」

 駅を出て話をしながら並んで歩いていて周りが住宅街になり始めた時、止まって後ろの荷台に乗るように言われた。
 いわゆる二人乗り。
 男の人と自転車の二人乗りをする日が来るなんて昔の私には羨望でしかなかった。
 それを今はこうして好きな人と出来るなんて。

「乗れましたか? スカート、巻き込まれないように気をつけてください」
「うん、いつでも動いていいよ」
「しっかり掴まっていてください」

 荷台に横に座ってスカートをあの手この手で巻き込まれないようにまとめると返事をした。
 動き出して落ちないようにと腰に手をまわして自分を支える。
 
「大丈夫ですか!」
「だいじょーぶ!」
 
 スピードが出て安定し始めた頃、宗太君が風切り音に負けないようにこちらを向いて少し大きめに話しかけてきた。
 宗太君の大きくて温かい背中に頭を傾けてコトコト揺れる自転車の振動に身を預けていると、疲れもあるのかどんどん眠くなってくる。
 このままだと寝ちゃうかも。

「落ちますから寝ちゃダメですよ」
「はーい」
「もうすぐそこですから」

 すぐそこ、の通り目を開けて見た事のある風景だと思っていると目的地の宗太君の家に着いた。
 自転車を降りて宗太君がガレージに自転車を片付けているのを眠い目を擦りながら見ていると、何か重大な事を忘れているような気がする。
 

「そうだまひるさん。よかったらシャワーはどうですか? 昼間あれだけ動いていたら汗も掻いているでしょう?」

 シャワー? シャワーね。はいはいシャワー……ええぇえ!? 眠気ですっかり忘れていたけど今ってかなり危ない状態なんだった!
 家に誘ってシャワーって……ほぼ確定!?
 きょ、今日は気合入れて可愛いのにしてきたけど……汗吸っちゃってるしシャワー浴びて脱いだら意味がないんじゃ? ……そうじゃなくて!
 というか! もう片付け終わって玄関の鍵を開けてるし!

「あの! シャワーって!?」
「時間が掛かってもいいなら湯を張りますけど? 取り合えず用意しますから急いで中に入ってください」
「あ、ぁう……」


 急いでとか言ってるし宗太君は多分その気だよね……どうしよう!? 
 あぁもう! どうするの!? どうなるの!? どうしたいの!? 
 


 何とか言ってよまひる!