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cheerful

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 昨夜ベッドの中で、明日はプール開きをするから起きたら水着を着て1階に下りてきてねとさんざん言っておいたのに、イギリスは白シャツとスラックスに革靴といういつもの格好でリビングに現れた。
 実にばかだな、とアメリカは呆れた。今の季節をまるでわかってない、とても残念なKYだ、そんなんじゃ夏がかわいそうなんだぞ――
「……俺は泳がないからな。おまえひとりで泳げよ、俺はプールサイドで本でも読んでるし」
 このひとはまだそんなことを。
「君はこれから俺と水遊びするんだ。異論はもちろん認めないぞっ」
 ということで、薄っぺらい肩をつかみ、ぐんと押して階段を上がっていく。
「なんだよ!」
「はいはい」
「どこ行くんだよっ?」
「着替えに行くんだよ」
 元気よく返事をして部屋のドアを開ける。
 ボタンに手をかけた途端にぎゃいぎゃい暴れるのを押さえ込み、素っ裸にひん剥いて、……いろいろして、薄手のジップアップパーカーを羽織らせ、水着を着せつけてやる。
 仕上げに赤いサンバイザーをかぽっとかぶせると、イギリスの頬も耳もそれと同じ色になっていてかわいかった。
(ちょっとやりすぎちゃったかな)
 ……しょうがない。恋人のヌードを目にしておとなしくしてられるわけがないじゃないか。あれこれしたくなるに決まってるじゃないか。
 鎖骨の下につけたばかりの跡が、妙につやめかしく見える。
(うわ、あ)
 慌てて視線を外して浮き輪とボートを持ち、とっさにタオルを引っつかんだイギリスの手を引いて玄関を通り抜けた。
 高いところで陽が照っている。
「うん、今日は健全に行こうじゃないか。絶好のプール日和だしね!」
「さっきあんなことしたやつが健全とか言うなよ……」
 手をつないで庭のアプローチを抜け、その先のプールサイドにサンダルをぺたりと言わせて立つ。かすかに吹く風に青い水面が揺らめき、いかにも涼しげだ。
 アメリカはうずうずと足踏みをした。今すぐイギリスと飛び込みたくてたまらない。
 けれどイギリスは静かにプールを眺めるだけ、はしゃぐ気などさらさらないようだ。
 そのうち、タオルの隙間からなにかを取り出してカシャカシャと振り始める。つまんないなあそんなに興味ないのかい……って。
「それ、なんだい?」
「日焼け止め」
「あー……君すぐに赤くなっちゃうもんね」
 夏になるたび、海だの山だのにイギリスを(強制的に)つれていくアメリカは思い出した。この肌は自分のものとは違って、ずいぶんと繊細なのだ。
「よし、俺が塗ってあげるよ」
「えっ、いやいい……って、おい!」
「いいからいいから!」
 強引に押し切り、ジップアップパーカーを脱がしてしまう。
 中身をしっかりと攪拌させ、液をだぼだぼ手の平に取り、ほら早くと促せば、イギリスはため息をついてチェアに横たわった。
 まばゆい背中。……ここにも、鬱血の跡が残っている。
(昨日のイギリスも)
 えろかったなあ……と思い出しそうになるのを、かぶりを振って霧散させた。だめだだめだ、健全に行こうと決めたばかりじゃないか。
 ぬるぬるを背中にすりつけていく。なめらかな白い肌。その下に息づく薄い筋肉、整然と並ぶ骨の形。
(う……これは……やばいぞ……)
 ぎゅうと目を閉じて塗り終えると、体を反転させて今度は前面も撫で回し……いや、塗りたくっていった。顔、首、手足もちゃんと。
 ……まったくそんな(どんな、と訊かれても困る!)つもりはなかったのに、イギリスの様子もなんだか徐々におかしくなっていくから、叫び出したくなった。違う、俺はこんなつもりじゃ、純粋に優しくしてあげたくて俺は、俺は。
 ぴちゅ、と立つ濡れた音を聞いていられない。
「ぬ、ぬ、ぬりおわっ……た、ぞっ」
「あぅ、うん、ん、ありが……と」
 ふたりそろって、かかかーっと赤面してうつむいた。しぃんと沈黙が続く中、庭木の梢がさわさわと音を立てる。
(なんだこれは)
 だから、違うんだ本当に、俺は健全にって――
「……うわあああっ!!」
「ふぎゃああああっ!?」
 甘ったるい空気に耐えきれなくなったアメリカはイギリスを抱きしめると、プールに背中からばしゃーんとダイブした。
 水の冷たさに鳥肌が立つ。ぼやけた視界の中、イギリスのまんまるになった翠色と、淡い金色と、浮かび上がっていく赤いサンバイザーが見える。
 がむしゃらにしがみついてきたイギリスはがぼっと空気を吐き出し水を飲むという、普段の彼ならば(たぶん)しないようなミスを犯した。
 だからアメリカはプールの底を蹴り、慌てて水面に顔を出す。
「ぷあっ」
 水深が結構あるから、体が縦になっても足は届かない。
 イギリスを抱いたまま立ち泳ぎして顔を覗きこむ。イギリスは、盛大に噎せていた。げほごほ、がはえふ。
 背中を撫でさすってやる。
「ははは、君ちょっと、鼻水垂れてきたぞ」
「てンめえぇ…っ…ほか、にっ、言うべきこっ…げほげほっ…あんだろうが!!」
「髪が肌に張りついてセクシーだね。……今すぐベッドルームに引きこもりたいな」
 強張っていた頬に、さあっと赤みが差した。
「な、な……っ」
 沈まないようにとすがりついてくるイギリスの反応はあまりに素直すぎる。
(口はこんなにも悪くて、突っぱねてばかりなのに)
 なのに、その初々しさはなんだ。
「……なんて、」
 こっちまで照れてきてしまった。
「うーそーだーよー」
「……っばかあ!!」
「ははははは!」
 鼻の下をぺろりと舐め、おでこにくちづけた。
(しょうがないよ、許してよ)
 だって、あのセリフを流さないままでいたら、またイケナイことしそうになっちゃったんだよ。
「……ねえ」
 冷たい水の中、触れ合う体温が気持ちいい。
「イギリス、くっつきすぎだよ」
「……寒いんだよばか」
 ぴとりと体を寄せてイギリスが言った。
 その耳はうっすらと染まっている。もう日焼けしたの。そういえばそこ、塗らなかったもんね。
「……かーわいい」
「ばっ……ん、あ」
 耳朶にきゅうと吸いついてやる。ばかはもういらない、健全じゃなくてももういいや。
 ありのままの俺たちでいいよね。
「うん、別に不健全でも構わないじゃないか。恋人はいちゃつくもんなんだから」
「もう意味わかんねえよ……」
 そう言うくせに、イギリスはこぶりな唇を「ん」と突き出してくる。
 アメリカはくすぐったげにふふふと笑って、ねだるそこにちゅっとキスを落とした。
作品名:cheerful 作家名:初音