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あいすることをしらないふたり

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「ねぇ青葉くん、俺耳に穴あけたことないんだよね。」

 釘でとんとん、と自分の指をつついてあそんでいた臨也がやっと俺に気付いたかのようにかけた言葉がそれだった。俺は何の話だ、と聞き返すと、
「いや、ピアス。どうやったら耳って穴があくのか君しってる?」
「そりゃ、病院とか、ピアッサーとか…いろいろあるんじゃないの。」
臨也ははじけたように笑いだす。そして落ち着いたときにこう言った。
「えぇえ、そんな面倒なことするの、俺が?」
臨也が近づいてきて俺の耳に口を寄せて、キスをした。きれいな耳だね、といった。

***

かん、と心地のいい音が鳴った。最初は痛覚とも認識できない。あ、神経を興奮が伝達している。こんなにゆっくりと、という感じだ。
「ねぇ、青葉くん、今ひとつあいた。わかる?」
俺はその声が鼓膜に正確に響くより先に叫んだ。叫ばないように、と歯をくいしばっていたので、唇からも血はしたたる。
そこにどこでかってきたかもわからないピアス状のものを通す。傷口にすれるたびに口から息にまじる嗚咽がもれる。よし、と何かをやりとげたような声で、鏡を俺に手渡した。
「似合うねぇ…ピアスは支配の証だっていうから俺もはりこんだわけですが。」
ひどい顔だった。やつれきっている。血でまみれている。臨也は俺から鏡をとりあげて言った。最後の最低な一言を。
「それもうとれないから。」

「ひきちぎったら?きっともっと血がたくさんでるだろうね。君はそれでもいいと思うだろうね。でも、帝人くんはどう思うだろう。君のような従順な駒を失ってどう思うだろうね。帝人くんは俺のものである君を、どう思うだろう。ねぇ、青葉くん、もしかしてきこえないの、ねぇ、返事をしてよ、」
「俺は駒じゃない。」
臨也はしゃべるのをやめて、へぇ、と小さくつぶやいた。そしてこっちを憐れんだように見たかと思うと最後に心底おかしいというような笑顔を向けて言った。
「ねぇ、青葉くん、どう思われたいの、君。」
臨也はこらえきれない、というばかりの苦笑をもらし、そしてもう一本いこうか、といった。何度刺されたのかは覚えていない。痛みが連続しすぎて分解して考えることができないのだ。
俺はがたがたと震えた。臨也は釘を引き抜くと消毒用のガーゼを当てた。耳に叫ぶほどの痛みがほとばしっているはずだったが、俺はもう痛みを感知することができない。目が血走るのがわかる。細菌がはいったりしたらどうしよう、とそんなことも考えながら、そんなことは忘れろとばかり首を激しくふって臨也をにらんだ。でも、臨也はそんな俺の目に驚きはしないで、むしろ余裕をもってガーゼを動かした。激痛。激痛、激痛。その繰り返しが収まっていくと、まぶたが今度は重い。血がたりない。最初に刺された傷から流れた血もある。
くそ、こいつ殺してやる。俺はその言葉をはっきり発音できていたかわからないが、とにかく最後まで臨也の顔から眼をそらさなかった。
だから、いい顔だねぇ、と彼は笑顔で言い放ったのも覚えている。