マリアの左手
祈りなさい、と神父は言う。
時は満ち、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信じなさい、と。
闇の最下層に存在する、すべての根源との戦いはもうすぐのはずだった。
だからティミーは、この世界との別れを告げるためにこの教会へやってきた。
次元と次元の狭間の祈りの空間。
礼拝堂を抜けた中庭から、聖母を讃える歌声が聞こえる。
『…ああ、めでたし聖母マリア。
その恩寵に満たされ、主は御身とともにいませり。
ああ、聖なるマリア様よ、神の御母よ。
罪深きわれらのために祈りたまえ。
祈りたまえ』
次の大地を目指すティミーに、恩寵豊かな聖母マリアがチラリと微笑む。
たとえ今生で適わなかったとしても、次の世代がいつか見つけるだろう場所。
勇者と呼ばれる存在がいつか見つけなければならない場所。
夢を見るよりも先の未来へ彼らは向かう。
マリアの祈りの言葉を胸に抱きながら。
決戦を次の日に迎えるその日の晩、ティミーはシーツに顔を埋めたままじっと息を押し殺していた。