二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ハートを玩弄してくれるなよ 中

INDEX|1ページ/1ページ|

 


 律儀にも毎日見舞いに来てくれた親友に、一生に一度かというほどの醜態を晒したのは三日ほど前のことになる。あのふざけた人にふざけたことを言われた、ちょうど三日後のことだった。言われた直後に風邪で倒れたのが返す返すも悔やまれる。誰も気にしないだろうとわかっているが、そういう問題ではないし、そういう問題ならいっそ気楽である。面倒な気性だと自分でも思う。
 そうしてなんとか長引いた風邪が完治し、学校に行くと、安心したらしい親友はその話を振ってきた。だいたい、何があったのかはわかったらしい。わかった上で、知らないふりをするのではなく、詳しく話せ、という。この親友はやさしい。その好意を、信じられる。あの人とは、違うのだ。
この、やさしい親友に、なんと言うべきか考える。そうしたら、先日のことを言うにしても、言っておかなければならないことがあることに気がついた。ならば、それから言うべきだろう。
「でもさ、正臣。話してると僕泣くと思うんだ。まだそんなに整理できたわけじゃないし。たぶん、ていうか、絶対、泣く。泣く女とか面倒だと思うけど、最初にこれだけ言わせて。これだけ約束して。この話を聞いても、絶対に、」
 そこで一度言葉を切る。正臣に真剣ぶった目を覗き込んだ。

「慰めるな」






 どうでも良かったなんて言ったら嘘になるが、帝人にとって恋愛感情は比較的優先順位が低い方にあった。理由は簡単だ。見込みがなかったので。まあ別に報われることが全てだなんて思っているわけではないけれど、優先順位を上位に設定するにはあまりにも見込みがなかったのだから仕方ない。つまり、不毛だったのだ。そんなことはわかりすぎるほどにわかっていたし、だからていねいにていねいに幾重にも包んで縛って沈めておいたというのに。―――まったく好奇心が動機の人間の浅はかさと言ったら。一時期、鈍感力なんてものが流行ったが、どうせ人間なんて総じて鈍感なものである。ただのポジティブシンキングで、ただの自己肯定だ。鈍感力という本自体が鈍感力で出来ている。自己肯定は何よりの武器だが、それにしたってリスクは高い。賭ける価値がある程度にハイリターンなのは認めるが、残るかもしれない不快感は計り知れないし、それは確実に影を落とす。帝人にとって、それは見過ごせないリスクだった。
 ただし、帝人にとってのリスクは、目的と手段が逆転しているような人間にとってはただの余興だった。
「―――まあ、そういう話だったわけ」
 話し終わってちらりと親友を確認すると、難しい顔をして腕を組んでいる。酷な要求をしたかな、と少し思う。なにせ、この親友はやさしいので。だからこそ、自慢の親友なので。本人には言わないけれど。
 やがて、難しい顔をしていた親友が、腕をほどいた。まっすぐに帝人を見つめて、言う。
「で、お前はどうするんだ?」
 今度は帝人が考えた。と言っても、もうずっと考え続けていることではあるのだけれど。
 結局帝人に選べる選択肢は多くない。けれど、どういう行動を取ったところであの人は喜んで観察するのだろう。あるいはもう飽きられているのかもしれない。―――それならそれでいいだろう。何にしたって、どうせ腹の立つ人間なのだ。ならば、自分がいちばんすっきりとする手段を選べばいい。だから帝人は考えた。今、自分にとって最優先は何だろう、と。―――決まっている。決まっていた。あの余裕ぶった男の鼻っ柱を折ることだ。自分の恥や外聞程度、目的の前には些細なことだ。あのにやけた顔で『それ、本気?』だとか、他にもいろいろ言いやがったあの男から誠実な答えを引き出すことだ。この尊くも馬鹿馬鹿しいこの感情を、くだらないと切り捨てていいのは自分だけだ。
「あのね、正臣」
「ん?」
「実は僕、この前風邪で倒れたとき、家じゃなかったんだ」
「………そうなのか?」
「実はあの人に色々言われたあと、頭ぼーっとするなとか思いながらふらふらなんとか帰ろうとしてて、途中で倒れたんだ」
「………聞いてないぞ」
「ごめん。で、そのとき、もう自殺願望者かってくらいぼーっとしてぼたぼた泣いてたらしいんだけど」
「………帝人」
「おこ―――られるのは仕方ないと思うけど、ちょっと聞いて。倒れた僕を介抱してくれたの、実は、静雄さんなんだ」
「………、………、………はあっ?!」
「と、いうわけで、僕はちょっと静雄さんに何かお礼を渡しに行こうと思います。何がいいかな?」
「食べられるもん?」
「まあそうだよね。選びに行くのつきあってよ」
「それくらい構わないけどな。で、平和島静雄んとこ行くのもつきあうか?」
「それはひとりで行くよ。そうじゃないと意味ないし」
「………意味?」
「そう。意味」
「礼儀じゃなく?」
「―――うん。するどいね、正臣」
「―――他に、必要なら言えよ。協力くらいする」
「ありがとう親友。とりあえず、あのふざけた人間から誠実な答えを引き出そうと思って」
「どんな手を使っても?」
「どんな手を使っても」
「女って、怖いな」
「あの人も、そう思ってくれると楽なんだけどね」






 二週間程度の空白。それから、準備を整えた帝人は折原臨也にメールを打った。
『お話があるので、会っていただけるとありがたいです。ご都合が悪ければ、来ていただかなくても構いません。今週の金曜日夕方六時に、新宿駅の…………』
 送信を押す。了承の返事は短かく、そして比較的すぐに来た。まだ飽きられてはいなかったらしい。つくづく、人を馬鹿にした男である。
 もう、好きだとか嫌いだとかつきあうとかつきあわないとか愛だとか恋だとかはどうでもいい。とりあえず、人間と対等に、向きあってもらうだけである。