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とうふ@ついった
とうふ@ついった
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フェチズム

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※来神時代



真上から一粒の雨が降ってきて、頬を濡らした。門田は文庫本から目を離し、上を見上げる。空はしかしながら、青がよく通っていた。よくある現象だ。
本が濡れないためにも早々に引き上げようと門田が出口へきびすを返した、ちょうどそのタイミングで、屋上の扉はガチャリと開かれた。
「やっぱり、いたー」
「雨降ってきた所だぞ」
「え、そんなー。今廊下に戻ったらシズちゃんに見つかるよ。せっかく逃げてきたのにさ」
またいつもの喧嘩をしていたらしい。これで何回目だろうか、常に把握しているわけではないからよく分からない。それも自分にはあまり関係のないことだと、彼と入れ違いに門田は屋上から出て行こうとした、が その動きは止まってしまう。

「付き合ってよ、ドタチン」
裾を緩く掴んでいるようには見せているが、絶対に離してくれない。
自分が一体どんな気持ちで彼を視ているのか、相手は気付いているのだろうか。それだったら質が悪すぎる。
そんなことを考えたのもつかの間で、一つため息を吐き出して、仕方ねぇなあなんて答えている分には、まだまだ自分も彼を無視することは出来ないらしい。
「あはは、さすがドタチンだー」
ほら、また彼は笑った。素直な笑顔だ。他の奴と話しているときにそれは見ることがない、そのことは事実で、自惚れてもいいのかと門田は自問自答していた。
雨はまだ小雨で、本さえ濡れなければ後は割とどうでもよく、二人でいつもの定位置に座った。
そのとき昼休み後の授業開始を告げるチャイムが響いた。静雄と追いかけっこをしていたから昼飯を食べられなかったなんて、それこそ自業自得だ。
「ドタチンもなんか食べる?」
「お前パン一つしか持ってないだろ」
「半分いいよ。食べる気しないし。あ、ドタチン、ちょっと手、前に持ってきて」
不意な頼み事になんだと思いながらも、門田が彼の前に手を持っていくと、彼は何だか狂愛じみた目つきでそれをじーっとそれを見詰め続けた。
「何がしてえんだ」
「俺さ、人の指見るのが好きなんだよね。うん、俗に云う指フェチ?」
「……」
「黙んないでよ。さっきさ、シズちゃんにも見せて貰おうと思っていろいろしたのに、結果的にこっちが追っ掛けられちゃってさー。たまんないよ」
それが原因か。それは静雄も怒るだろう。いや、ただ焦っただけか。
「ドタチンの指は、綺麗だね」
「あんまそういうこと、軽く言うな」
「気持ち悪い? やだなあ。純粋な気持ちだよ」
どちらかといえば彼は人間フェチと言った方が正しい気がする。特に好きな部位があるのは門田には意外な感じだった。こそばゆい。
「指フェチか……」
「あー。でも、俺ドタチンは、目も、爪も、足も、全部好きかも」
門田は思わず彼の目を驚きの表情で見てしまった。そんな門田に気付いているのかいないのか、彼は未だ門田の指を見て笑う。
「はは、俺、ドタチンフェチだ」
こんなところがあるから。そんな馬鹿っぽく安っぽい言葉に絆されてたまるかと思うのに。
『なら、ずっと俺のことだけ、見るようになれよ』
頭に浮かぶ言葉はどれも自分らしくなくて、結局に彼に伝えるものは思っていることの、10分の1も伝わらない。
少しは声に出していいかもしれない。
分かっているのか。この気持ちを。

「静雄の指は、どうだったんだ」

距離がもどかしく、縮まない。彼の、彼の名前を呼ぶと息がくるしくなり、喉の奥に何かがひっかえるような。

「いざ、」
「早く気付いて、ドタチン」

瞳の先が、ぶつかった。
作品名:フェチズム 作家名:とうふ@ついった