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隣のおじさんと末っ子の日常

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刹那は喋らない子供だった。
そのせいか小さい頃からほとんど友達という友達はいなかった。
別に刹那はそれでいいと思っていた。人と関わることが嫌いというわけではなかったが、単に一人でいることの方が好きなだけだった。
人間というものはとても面倒なもので、思ったことをそのまま表現してしまっては相手から反感を買うことが多かった。特に刹那は他人の感情にとても聡かったから、なおさらだった。
それで度々、幼い頃は揉め事をたくさんおこした。友達がいないことで兄達に心配をかけた。
それから刹那は面倒を起こさずに生きていく術を学んだ。自分自身を大きく変えることはできなかったので、せめて相手が気に障ることは言わないように、と以前にもまして喋らなくなった。挨拶程度の言葉は交わすが、それ以外の会話にはあまり応対しないようにした。それで大抵の人間は会話するのを諦めて刹那の前から去っていった。
揉め事は起こさなくなったが、依然として友達はいなかった。その点は兄達も心配し続けたが、揉め事で怪我をしてこないだけましだと思ったのだろう、何も言わなかった。
刹那としては一人でいることも好きだったのだが、兄達は刹那を気遣ってよく一緒に遊んでくれた。
それでもやはり彼らは刹那より大人で、多忙な人たちである。刹那が学校から帰ってくるのは3時。刹那を除いて、一番帰ってくるのが早い4番目の兄、ティエリアは6時。約3時間の間、刹那は一人でいることになる。
ニールは刹那を学童へと入れたがっていたが、あまり人付き合いがよろしくない刹那をいれるのも心配だという葛藤の末、刹那は一人家で留守番をしていることになった。
(そんなに心配しなくてもいいのに。)
刹那はニールから持たされていた鍵をつかって家へ入る。
そのまま靴を脱いで家の中へ入ろうとしたが、ニールが口うるさく鍵をかけておけ、といっていたことを思い出す。
がちゃり、と鍵をしめて、ドアにしっかりとチェーンもかける。
(任務完了。)
リビングに入ると、テーブルの上にはホットケーキがおいてあった。温めてメイプルシロップをかけて食べてください、とニールの字で書いてあった。つくづく世話焼きの兄だな、と思ったけれどもちょうど甘いものが食べたかったからありがたかった。
電子レンジで温めてメイプルシロップをかける。冷蔵庫から牛乳もとりだして、ホットケーキと一緒に並べる。
ホットケーキを食べながら、今日は何をしようかと考える。先日ニールに買ってもらったエクシアのプラモデルがついこの間完成したばかりだ。それで遊ぶことにした。
不意に隣の家から「ガンダァァァァァムッ!!!!」という叫び声が聞こえた。
刹那は不思議に思って窓の近くへと行く。
「素晴らしい!素晴らしいぞカタギリ!」
「嬉しいのはわかるけど…もう少し静かにしなよ、キミ。」
「これが静かにしていられるかッ!ああ…!ガンダムエクシア1/60……!!待っていたぞ…!!」
「ほら、ご近所さんとかに迷惑だからね…。」
そっと窓を開けて見ると、金髪の男がエクシア1/60プラモデルを抱きかかえて叫んでいた。そしてそれを茶髪で長髪の男が宥めている。
なぜだか、刹那の心の中に金髪の男に対しての対抗心がふつふつと沸いてきた。
「ほらグラハム見てごらん。あんなちっちゃい子がキミを見てるよ、恥ずかしい。」
金髪の男がこちらを見る。刹那と目が合う。刹那は金髪の男をにらんで、2階の自室へ走る。
「あ……。…キミ絶対変なおじさんだと思われたよ。」
「…あの少年……。」
刹那はばたばたとリビングに戻ってくる。
そして窓際に戻り、金髪の男へと完成したエクシア1/60プラモデルを見せつける。どうだ、と言わんばかりに。
金髪の男はそれを見て、一度驚きで目を見開いた。そして嬉しそうに笑う。
「少年!キミもガンダム好きか!」
刹那はこくりと頷く。
「そうかそうか!私の家にはたくさんのプラモデルとガンダムグッズがあるぞ!」
金髪の男はそういうと本当に嬉しそうにしながら刹那の方へ手を伸ばしてきた。
「私はグラハム・エーカーだ!少年、暇なら私の家へ招待されないか?」
1人でお家にしっかりと留守番しているように、というニールの言いつけはもう既に刹那の頭からは吹っ飛んでいた。

生まれて初めての刹那の友達は27歳ガンダムオタクの変人だった。







(少年、これからは家に帰った後、暇ならば私の家に来るといい!)
(了解した。)