狼の後悔
「何の耳ですか?ごわごわしてますね。」
市販の猫耳とかうさぎ耳のように可愛らしいものでは無くて。
「狼、人狼の役をやるんだ。」
「へぇ…」
こうやって幽さんが仕事道具や台本を帝人との逢瀬に持ち込むのは珍しい。
「少し分からないんだ。」「分からない?」
その世界では人と人狼が共存していた。
人は人狼を恐れよりつかず、人狼もまたその恐怖故時に牙を剥く人間に近づこうとはしなかった。
そんな閉鎖的な世界にある人狼が生まれた。
ある人狼は生まれながらに身体の一部を欠損していた。人狼の世界でも見た目一つにも違いがあると差別される。理解してくれるものもいたが、人狼は孤独だった。
そしてある少女と出会う。彼女もまた生まれながらに身体の一部を欠損していた。しかし彼女は孤独ではなかった。人を愛し世界を愛していた。
彼女は人狼に世界の美しさを解き続けた。
そして人狼は彼女を愛してしまった。だから怖くなった。彼女は愛される、いずれまた一人になってしまうと。
彼女もまた人狼を愛していた。彼女はその気持ちを伝えつづけた。
人狼は泣きじゃくりながら、
「嫌いだ」
彼女を拒絶した。
「悲しい話ですね。」
「うん。俺が君を愛して、君も俺を愛している。」
ひと呼吸置いて
「俺は君を"嫌いだ"」
「はい…」
向かいあって座っていた幽はそのまま帝人を己の胸に引き寄せた。
「ごめんね。」
嫌いだ、そう伝えた瞬間の帝人のほんの一瞬の表情。それのみで幽は理解した。
人狼が感じた後悔の気持ちを。