Honey Toast
俺の恋人はそれはもう毎朝良い声で囁いてくれる。
起きろと劈く雄鶏とも違う、沢山の目覚まし時計を鳴らすよりも効果的な朝の一声。確実に起きられるその囁き。
囁かれた声は漣のように俺の身体を静かに流れ、その漣の後には艶っぽい感触が…
生きとし生ける全てのものの享受する全てが快楽を生み出す。
「My sweet honey.」
そんな今時古い外国映画でしか聞けないような甘い言葉を、彼はそれこそまたハリウッドの外国映画スターばりの爽やかな笑顔で言い、キスを顔中に降らしてくれる。
「もう…や…っ…」
チョコに蜂蜜をかけた時の甘さと表現して良い位に甘い、彼のこの毎朝の行動は彼と暮らし始めた幾月もの間に何度繰り返されてきたものだが、言って生粋の日本人である俺には回数を重ねても慣れるものではない。
恥ずかしさにいたたまれずに布団を引きずりあげ顔を半分すっぽり隠すと、彼の顔を伺い見ると笑みが一層深くなった。でも、その笑顔に何処と無く黒さを感じるのは気のせいなの…か。
と、起き抜けで働いていない頭が結論を出す前にその考えが間違っていないという事が行動で示されてしまう。
キシリとダブルベッドが撓る音がしたかと思うと、視界から天井が消え、窓から差し込む朝日も狭くなりる。そして布団の上に心地の良い重みが加わる。
顔の両側につかれた腕、ゆっくりと降りてくる彼の身体。
綺麗に洗濯のされた真白いYシャツの合間からは昨日自分が付けた跡も垣間見得る。
そして唇が耳に触れるか触れないか程に近付き、顔には雄の気色が滲み出ている。
朝から変な気分になりそう。そんな考えに頭が占められていると、彼はそれを知ってか知らずか
「昨日のでは足りなかった?」
そう言い、オマケとばかりにペロリと耳元を舐め上げられると始まりの合図の様に目がトロンとしてきて声にならない声も漏れてしまう。
抵抗をしない俺の顔には当然のように再びキスの雨が降り始める。
啄ばむものだったり、ふれるもの程度のものだったり。顔だけで無く、首筋、胸元、指先にもと余すこと無く念入りに。
それこそキスの大雨洪水警報やー!?ってうんっ!?
学校も会社も遅刻するからっ!
我に返り瞬時に沸騰した俺の頭は、流された先に起こり得るで在ろう事を予想し、その状態が頭の中にリアルに映し出された。
「ぎゃーっ!!分かった!分かった!起きますって!」
真っ赤な顔のまま両手で彼の身体を押し退けると、ベットの外へバッと飛び出す。
「残念。」
すると嘘か真かはかりきれない様な笑みを湛えたままキシリと音を立てベットから降りると、冗談ですよと言っているかの様に寝癖をフワフワと撫でて、そそくさとキッチンへと戻っていく。
「コンラッド!」
肩を掴み振り向かせ精一杯の背伸びを1つ。
触れるか触れないかのキス。
そして何時もの日課、
「おはよう、コンラッド!」
(END)
作品名:Honey Toast 作家名:社瑠依