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結婚しようよ

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「帝人君は、ビールは…まぁ未成年だしね。」
 彼を知っている人間ならば彼の今の姿を見て、きっと明日は槍が降るに違いないと思うだろう。それは折原臨也自身もそうで、実に自分らしくないと感じている。鼻歌を歌いながら、その人のために尽くそうとする日が来るなんて。
 冷えたグラスを2つ、自分用のビールと、彼女の為のコーラの缶とおつまみを持って、リビングに戻ってみれば、彼女の笑顔が臨也を迎えてくれる、
筈も無かった。
 そうだ、彼女は臨也が振り回される程度には打算的な質を持ち合わせている。


「あれ…帝人君?そんな国旗持って、ユニフォーム着て、テレビの前に鎮座して…まさか君」
「ああ、僕の家テレビないし壁薄いんで騒いだら追い出されるので来ました。そうでなきゃ来ないでしょう?」
「『そうでなきゃ来ないでしょう?』じゃないよ!俺たち付き合ってるよね、互いの家行き来するの当たり前だから!それに流石にブブゼラ吹いたら流石に響くからね!」
防音はしてるけどさ!
 そう言ってテーブルにグラス類を少し乱暴におろすと、帝人は持っていたブブゼラをおろし、少し残念そうな顔をする。
 ああ、そうだ俺は大概この顔に弱いのだ。満たされない時の帝人の顔も勿論そそられるが、満たされないでいる彼女を自分が満たしてやったときに見せてくれる、あの嬉しそうな顔に変わる瞬間が臨也は好きだった。
 帝人は俗に言うツンデレというやつなのか、世間に言うカップルの様に甘えてくれる事もなく(全く無いという訳ではないが)、ツンデレというよりもツンツンでデレがないよ!と臨也が騒げばきっと生温い視線を向けられるだけなのだろうが。
それでも臨也は帝人が好きだのだ。己に傾倒する信者でもなく、外見に惹かれて擦り寄ってくる女共でもない、彼女が竜ヶ峰帝人が好きなのだ。
ユニフォームの下から僅かに見えるマイクロミニのパンツ、そこから伸びるほっそりとした色の白い太もも。ぺたんと、床に尻をつき何か言いたげに臨也を見るその視線。
「帝人君、好きだよ。」
「…はいはい。」
 三点リーダー分の無言は照れ隠しととって置こう。
グラスにコーラをついで手渡してやるとありがとうございます。と小さな声で言い、恥ずかしさが残っているのか、サッカーに視線を戻してしまう。
あぁ、可愛いなぁ、可愛いなぁ。
また鼻歌を歌いながら自分のグラスにビールを注ぎ、帝人に寄り添うように同じように床の上に腰をおろせば、暑いです、と逃げられるのだがかまわずにくっつく。
( あぁ、幸せだ。 )
 こんな風に尽くし、寄り添い、一緒にいたいと思ってしまうなど、臨也にとっては人生狂わせの大誤算だったのだ。



「今どのへんなの?」
「後半の半分くらいです。」
 画面の右上には0-0の文字。テレビ画面に釘付けの帝人の横顔を見ながら、臨也は色々と考える。それは主に帝人のいる生活の事だ。
 前はもう少し長かった帝人の髪だが、今は夏だからかばっさりと切られベリーショートに切りそろえられている。外見はぱっと見た限りでは男の子のようだが、見る人が見れば彼女が女だと分かる。だからこそ、あの襤褸アパートに住まわせたままでいさせるのが嫌で同棲を切り出した事もあるのだが断られた。
「臨也さんと同棲してるてばれたら色々と怖そうですから。」
 少し申し訳なさそうな顔をして返した帝人の表情を思い返す。
臨也が情報屋である事、彼がしている所業その全てを帝人は知っている。それを知っても、臨也と別れない事を決めたのは彼女だ。だからこそ臨也は帝人の言葉をそのままの意味とはとっていない。
( そうはいっても、ねぇ… )
グラスの結露の滴が床をひたりと濡らす。
テレビでは、笛がなりロスタイムの時間が掲げられる。
試合は変わらず0-0。



「ねぇ、結婚しようよ。」
「えっ。」
「えっ。」
 えっ。が一つ多い、それは
「何で臨也さんが驚くんですか。」
 帝人の指摘は最もである。俗に言うプロポーズ、プロポーズをしたというのは臨也だというのに。
「それは…その。」
 常に饒舌な臨也が口ごもる。それ自体が珍しいことなのだが、これは臨也自身も驚いていての事だ。
 自分はまだ、プロポーズする気はなかったのだから。もう一度同棲を切り出すつもりだった、だのにどうしたものか口からこぼれたのは『結婚しよう』プロポーズなのだから。
 少々不満そうな帝人の顔に一寸たじろぐが、
「返事は?」
引き下がれるものか。
「………。」
三点リーダー3つ分の後の彼女の答え。
「この試合に勝ったら結婚しても良いですよ。」

「それなら」
気合入れて応援しないとね、国旗を持ち、ブブゼラを鳴らそうと思えば帝人に止められ、あと十数秒。

ボールはどうなる?
終了のホイッスル、
試合会場の観客の歓声。

横からの感触は、彼女の唇。

(終わり)


作品名:結婚しようよ 作家名:社瑠依