秘め言葉
そんな言葉で覆い隠してきたけれど、それももう限界かな、って。
「猿飛佐助、只今戻りました」
「うむ。して守備はどうじゃ?」
「今の所、目立った動きはありません。織田も怖いくらいに静かなモンですよ」
「そうか・・・解った。今日はさがってよいぞ。ご苦労であったな」
「はっ」
お館様へ一礼し、部屋を出る。
あとはもう寝るだけだから、真っ直ぐに数日振りの自室へと向かうつもりだった。・・・途中、ふと思って旦那の部屋へ寄ってみた。
天井裏から除き見ると、明かりは既に落とされ旦那は静かに寝息を立てている。
まぁもう未の刻(午前3時頃)を過ぎてたから、起きちゃいない、とは思っていたけど。
「あーあ、布団蹴っちゃってまぁ。風邪引くよー」
足音を立てないように降り、捲くられた布団をかけてやる。旦那はうーん、と唸って寝返りは打つけど、起きる気配はない。
ぐっすりと寝入る旦那に自然と笑顔になるのがわかった。
「武将としちゃ失格だけど…俺様としては嬉しいかなー」
それだけ安心してくれてる、信用してくれている。それが嬉しいってことなんだって、前までは知らなかったから。
忍の里に居た頃には、武田に仕える前には、必要ないって置いてきてた、そんなたくさんのモノをくれた旦那。
時間を共有するにつれて、俺様にとって旦那はもう、ただの「主」じゃなくなってた。
本当は抱いちゃいけない気持ちだって理解ってたから、隠すのには慣れてたんだけど―――今なら、言ってもいい、よね。
そっと、耳元に顔を寄せる。
「有難う旦那…だいすきだよ」
そう囁いた瞬間に、旦那の表情が笑顔になったのは…多分、偶然だよね。
Fin.