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そんなんいらん、俺が欲しいのは

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「誕生日」なんて、ただ1つ年を重ねるだけだと思っていた。
少しだけ豪華な夕飯と、欲しい物を無償で貰えるだけ。
だから、特に騒ぎたてる日でもないという認識だった。
そりゃガキの頃は、違ったのかもしれないが。
そんなの覚えてなんていない。

大体18才にもなる男が、そんなん浮かれているなんて有り得へんやろ?



……って、例外がおったわ。
俺より1つ年上で、東京の大学に通っとる男子学生。

しかも自分のやなくて、他人の誕生日に浮かれている人。
まぁ、俺の恋人なんやけど。


「早よぉせんと、寝てまうで……謙也さん」

先週買って放っておいた、音楽雑誌は既に読み終わってしもうた。
ケータイに新着メールも来とらん。
自分からメールするのも、正直メンドクサイ。

はっきり言って、手持無沙汰。
暇で暇でしゃーない。

それも、これも。


『すまんな。誕生日、直接祝ってやれへんわ。でも夜電話するさかい待っとって』



「光」
「っ、謙也さん!!」

朝のメールの内容を思い出している最中に、まさかの本人に名前を呼ばれて
勢いよく体ごと扉の方へと振り返れば……

「……なんや、ユウくんか。」

そこに立っていたのは、自分の恋人ではなく。

「溜息つくなんて、失礼やで光。せっかく謙也の声で呼んだったのに。」

1つ違いの幼馴染である一氏ユウジだった。
自分の反応に大して気分を害した様子もなく、呆れたように笑うユウジ。
入口から足を進めて自分の向いに腰を降ろした。
テーブルに置かれたのは、俺の大好きな店の善哉。
一応誕生日プレゼントのつもりなのだろう。

けれど自分の頭を占めるのは。

「ユーくんやなくて、謙也さんに会いたいっすわ。」
「お前なぁ、口開けば謙也、謙也って、馬鹿の一つ覚えみたいに……」
「アンタだって、口開けば小春先輩の事しか言わへんくせに。」

ボソっと小さく呟けば、聞こえていたようで鋭いデコピンが飛んでくる。
それはバチン、と鋭い音を室内に響かせ、同時に光に鋭い痛みを与えた。
どうしてなのか知らないが、自分のお笹馴染みは昔からデコピンが
人一倍上手で。気に入らない事があれば、直ぐ自分にソレをするのだ。

「っ……ユー君、酷いわ。」
「アホか、今日は誕生日やから手加減してやっとるんやで?」
「そんなん気遣いより、暇やから謙也さんの声真似してや。」


めんどくさそうに「はぁ?」と幼馴染は答えたが。
誕生日プレゼントいらんから、と何度か嫌な顔するユウジに強請れば
最後は渋々、といった様子で首を縦に振った。
ただ最後に

「ホンマ、後悔してもしらへんからな?」


と今までと違った表情で、念を押した彼の言葉の意味を自分は知らなかった。


「光」

最初は、名前を呼んで。

「光、ごめんな。」
「早よぉ、帰ろうや!」

幼馴染が覚えているであろう、謙也の言葉を紡いでゆく。


「光、何やっているん?」

「アホやなぁ、お前は。」

最初は面白い、と感じていたその声が、段々と。

「光、次の試合絶対に勝つで。」

胸を圧迫して、苦しくして、いく。
どうしてか、わからない。


「光、誕生日おめでとーな。」


「ひか……」

最後には。
自分が望んだはずなのに、幼馴染の口を塞いでいたのは自身だった。
そして。


「だから言うたのに、お前はアホやなぁ。」


頬を涙が伝っていて、ユウジの手が自分の頭を撫でていた。







どうして東京と大阪はこんなに、遠いのだろうか。
『たった1年』そう笑って、俺は謙也さんを送り出したけれど。


会いたくて。
触れたくて。


謙也さんのいない大阪が生き苦しい。



だから早く声を聞かせて、この苦しさを拭い去って。


ユウジじゃなくて、謙也の声で。
早く俺をこの苦しさから、解き放って。