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ぬくぬく特効薬

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唐突やけど、ある一部の人種がムカついてしゃーない事ってあるやろ?
ぶっちゃけると、今現在。
むしろ進行形の形で、ウチは胸に湧き上がる怒りに苛まれてんのや。




「地球上の男子は全員死ねばえぇんですわ……」


シーツに蹲りながら、悪態を盛大につけば
光ちゃんったら、と見舞い用のパイプ椅子に座った小春先輩が困ったように笑う。
ゆっくりと伸びてきた指が、冷や汗で張り付いた前髪を梳いてゆく。

「ホンマ、災難やねぇ……光ちゃん。」

「マジ無いですわ、こんな誕生日なんて。」

そう。今日は年に一度しかない、ウチの誕生日やったのに。
別に中学にもなって、ちっちゃい頃のように浮かれていたわけじゃないけれど。
珍しく部活が休みで、謙都さんとケーキ食べに行く約束していて。
浮かれてはいないけれど、それなりに楽しみにしていたのに。


「あー、男子なんて滅びればいいっすわ。」

下腹部を襲う鈍痛と、1mmも動きたくないほどの腰痛。
どうして、このタイミングで月に一度のアレが回ってくるのだろうか。
予定ではあと4日後のはずだったのに……

「今すぐ、子宮取り出して焼却したっ……っぅう」
「光ちゃんは一日目キツイんやもんねぇ……」

シーツの上から、背中をさする小春先輩の手は暖かくて優しい。

「先輩、今すぐ生理痛が消え去る薬を開発してください。」
「ごめんなぁ、それはウチでも無理や。」
「誕生日プレゼント一生要らんから……先輩、頭えぇんやから。」


消え去らない、むしろ酷くなる痛み。
駄々を捏ねる子どものように、無茶な我儘を吐きだせば
すまなそうに、「ごめんなぁ」と小春先輩は笑って髪を撫でてくれる。

無理したらアカン、と保健室の鍵を貸してくれた蔵楽部長。
お大事にな、と心配そうな顔をしていた小石川先輩。
体冷やしたらいけない、とブランケットを貸してくれた師範。
早よぉ、帰って寝てろや、とぶっきらぼうに心配してくれたユウキ先輩。
寂しくなるから、とお気に入りのぬいぐるみを貸してくれた千歳先輩。
泣きそうな表情で自分を心配していた、金色。


我儘言って、誰かを困らせてしまう自分はホンマにガキやなぁと思う。
全然効果を発揮せーへん鎮痛剤の所為で、下腹部の痛みと情けないやら何やらで
思わず泣けてきてしまって、シーツの上に染みが広がっていく。


あぁ、早くお願いやから……




「光っ!!!」

藁にも縋る思いで、誰かに祈った瞬間。
ベッド脇のカーテンが、鋭い音を立てて開かれて眩しい光が視界いっぱいになる。
そして、体を包む温かさ。

「大丈夫か?ホッカイロとタオルケット持ってきたからな……」
「謙都、さ、ん。」

シーツごと自分の体を抱きしめていたのは、自分がずっと会いたかった人で。
その蒲公英色の髪と同じで、抱きしめた体温も春のように暖かくて。
痛む腰を無理やり動かして、謙都さんの胸元に顔を埋もらせてもらった。

「泣くほど痛いんやね。薬効くまでの我慢やから、な?」
ゆっくりと労わるように背中と腰を、往復する温かい掌。
そして紡がれる言の葉は、まるで子守唄のように優しくて温かい。
尖っていた心が溶けていき、一緒に痛さも遠のいていくような気がした。

「何かウチに出来る事ある?」
「ぎゅって、しててや。ウチが痛くなくまるで離れたら嫌や。」

小さい子の我儘、そのままのお願いに、謙都先輩は柔らかく笑って
ん、ずっと抱きしめたるからな、とぎゅぅっと力を加減して抱きしめてくれた。


「け、んとさ……ん」
「ん?」


やっと効いてきた鎮痛剤は、痛みと一緒に眠気も連れてきたらしく。
謙都先輩の温かさと相まって、段々と意識が沈んでいくのがわかる。

「ありがと、ぉございま……ぅ」


落ちゆく意識の中で、精一杯の気持ちを込めれば。
額に一際温かい温度が降り、それを確かめる前に……







「光ちゃん、ウチが薬発明せんでも……」
成り行きを隅で見ていた小春は、柔らかい頬笑みを浮かべた。
白いシーツを隔てて、抱きしめ合い夢世界に潜る謙都と光の姿。


開けっぱなしだった、ベッドのカーテンを静かに閉めて
小春は保健室を後にした。







こんな身近に特効薬が、おるんやから。
作品名:ぬくぬく特効薬 作家名:把瀬紬