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リヲ(スランプ中)
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魔王と聖女

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聖女は生まれたときからその呪われた瞳を持っていた。
それに怯えた親は聖女を神殿に捨て置いた。
それを哀れに思いつつも司祭たちの手で、
魔王へ捧げられる生贄としての運命を押し付けられて聖女は育てられてきた。

すべては魔王の荒ぶる御心を癒すために。



そして魔王に捧げられる日。

魔王は後ろ手に拘束され目も口も塞がれた聖女を見下ろし首をひねった。
魔王は司祭に静かに問うた。
「なぜ俺の物である聖女にこのような仕打ちを?」
司祭は床を見つめながら答える、
「この聖女は恐ろしき呪いを生まれながらにして持っております、
それは貴方様に害をなしましょう」


その言葉に魔王は笑った。
「この俺が人の子如きの呪いでどうにかなるとでもおもっているのか?」
司祭を下がらせ魔王は興味の惹かれたその目を見た見ようとめを覆う布を取った。
美しい月と太陽を思わせるその瞳に一瞬で魔王は呪いにかけられる。
気づくと全ての枷を解いていた。


聖女は笑った。
拾われた日から聞かされていた恐ろしき魔王、
魅惑の君とはこんなに容易いものなのかと。
聖女は立ち上がると魔王に足を差し出す。
それにまるで当然のごとく魔王はその足に口付けた。


おまえはわたしのものだ。

生まれて初めて笑った聖女の顔はまるで幼子のように愛らしくもあり、
淫魔のように妖艶でもあった。



魔王に手を引かれて聖女は初めて外を見た。
聖女は魔王の腕の中呟く、
「今までずっと地下牢に閉じ込められていたのに・・・、
こんな広い世界では窒息してしまいそうだ・・・」 
困惑する聖女に魔王は囁く、
「ならお前が満足するまで世界を壊してやろうか?」 
甘く囁く 
それは魅惑の君と呼ばれる由縁の声


聖女は今まで狭い世界しか知らなかった。
今まで魔王の生贄にされるためだけに育てられてきた。
生まれたときから誰にも愛されたことは無かった・・・! 
聖女は震えながら口を開く。 
魔王は予想通りの音が紡がれるのを待っていた。 
俺を虜にした憎くて愛しい聖女に望むすべてを捧げよう、と魔王は笑う。


聖女は答えた。 
「このままでいい」 
と一言だけ。 
なぜと魔王が聞くと聖女ははっきりと言った。
「その理由がない」
とまた一言。 
魔王を虜にする要因が瞳以外にまた増える。
魔王は、
「こんなに愉快なのは何千年ぶりだ」
と高らかに笑った。


そして魔王は聖女にもう一度膝まづき主従の証をたてる。
魔王はすべてが手に入るけれど本当に欲しいものと、
今まで一度たりとも出会えてこなかった。 
呪い以外生まれてこの方なにも手に入れたことの無い聖女が、
初めて手に入れたのは魔王。


「すべてをあげるよ俺の愛しの聖女。なにがほしい?」
聖女は、
「なにも知らないからなにもいらない」
と一言だけ。 
「それでは俺の気がすまない」
と魔王は困り果てた。
愛しい聖女になんでも捧げたいのにその聖女のなんて無欲なことか。
魔王はしばし考え思いついた。


なにも知らない聖女に全てを教えよう、
この世の英知もなにもかもを! 
名案だと笑った魔王に聖女はまたしても、
いらないと一言だけ冷たく言い放つ。 
とうとう魔王も困り果て聖女に膝まづいて言った。
愛しの聖女よ、俺はお前の望むものを知りたい。


聖女は言った。 
魔王が私のものであるならばそれだけで満足だ、と。 
魔王はもう一度考えた、ならば俺の好きなものを聖女に見せよう。 
魔王が聖女を抱き上げて連れて行ったところは満月の見える静かな丘。 
ここが俺の好きな場所だ、我が愛しの聖女は気に入ってくれるだろうか?


聖女は静かに月を見上げた。
そして小さく呟く。 
魔王が好きならば私もあれが好きになった。 
聖女は生まれて二度目の笑みを浮かべる。 
それはまるであの月のように穏やかで清らかなものだった。

作品名:魔王と聖女 作家名:リヲ(スランプ中)