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ずっとずっと後の話

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「例え死んでも、骨になっても一緒になれることはないんです」

 右手で、己の腰のあたりを押さえながら綱吉が言った。
 雲雀は壁に背中を預けて座り込み、気だるそうに、隣に座った綱吉の顔を伺う。
「俺はドン・ボンゴレ、あなたは風紀財団の委員長。生きてる間、一緒にいる時間はとても短いけど、死んでしまった後くらいは一緒にいたいって言ったら、骸に言われちゃいました」
「あなたたちは骨すら一緒にいられませんよ、って」

 綱吉は、ゆっくり息を吐き出すようにそう言って、右手に力を込めた。抑えきれない赤いものが、手の隙間から流れ出て、すっかりどす黒くなってしまった血の上に落ちる。

「知ってました?」
「何をだい?」
 雲雀はジャケットを脱いで、ワイシャツも脱いだ。歯を立てて引きちぎり、布切れに変える。
「骨からでもDNAはわかるんですって」
「ふーん」
 布切れになった元ワイシャツを何枚も重ね、雲雀は丁寧に折った。
「DNAがわかれば、マフィアの技術は進んでるから、クローンができちゃうじゃないですか」
 雲雀と同じように壁に背を預けて座っていた綱吉を引き寄せる。小さく奇声が上がったような気もするが気にしない。
「俺子供作る気ないし、ボンゴレはこれで終わりにするつもりだったんですけど、旧幹部さん達の中には、まだ納得してくれない人が多くって」
 雲雀は綱吉の上着を引っぺがして、赤黒く染まった石畳の、それでも比較的きれいな処へそれを置いた。
「遺骨を掘り起こされて、クローンでも作られたらたまらないからって、うっ」
 引き寄せた綱吉を、無理やりジャケットの上に寝かせた。その際、自分の手が傷口に触れたのか、綱吉は呻く。
「だから俺が、死んだ、ら、リボーンと骸が責任もって海に蒔いてくれるそうです」
「確かにそうしたら、誰も君を手に入れることはできないね」
 雲雀は綺麗に折った布切れを、綱吉の腰に、傷口に押し当てる。
「はい、俺この前本読んだらとっても素敵なことが書いてあって、同じ事をして欲しいって、俺と雲雀さんの骨を、並盛にでもこっそり埋めて欲しいって言ったんです」
「……随分なつかしい本読んでるじゃないか」
 腰に押し当てた布が、どんどん赤く染まることに顔を顰めながら、雲雀は自分の上着を、綱吉の腰に通した。
「あれ、雲雀さん絶対読まなそうだと思ってたのに、知ってるんですか?」
 上着の腕の部分をきつく縛って、結び目が傷口に被らないように調節する。
「まあ話はずれましたが、とにかくその本読んで、一緒のお墓に入れなくても一緒にいられる方法はこれしかないって思ったんですけど、骸に鼻で笑われました」
 むすっと、幼い子供のように頬を膨らませる綱吉に雲雀は小さく笑む。綱吉の頭を持ち上げて、膝の上に乗せた。
「俺は、死んでしまっても、雲雀さんを手に入れることはできないんですか?」


 呼吸が苦しくないようにと、顎を上向けて気道を確保しながら、まっすぐに雲雀を見つめる綱吉を、同じように見返す。
「君がさっきから話しているのは、あくまで肉体的、物質的な問題だろう?」
「……?」
 すっかりボロ切れとかしたワイシャツの余り布で、綱吉の額の汗を拭きながら、雲雀は言った。
「僕は群れるのは嫌い。でも死んでしまって意識だけになったらもうわからないし、気が向いたら君と一緒にいてあげてもいいよ」
 頬を少し動かした綱吉は、痛みに顔をしかめたようにも見えたが、きっと笑ったのだろう。雲雀は、赤黒く染まってしまった琥珀色の髪を撫でて、額にかかったのを払ってやった。
「心配なら、六道に頼むといいよ」
「なんてですか?」
「君が死んで僕が死んだ後、一緒にいたのかどうか。次に生まれ変わったときに教えてもらえるようにでも頼みなよ」

「あいつのいい処なんて、記憶力がいいくらいしかないんだから」
作品名:ずっとずっと後の話 作家名:桃沢りく