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八百万分の一の話

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「神様の数え方って柱だろ?」
「ええ、そうですね。それが何か?」
「人間の遺体の、遺骨の数え方も柱なんだってさ」
「おやまあ、それは何とも……ずうずうしいですね」
 白い息を機関車のようにはきながら、横を歩く骸を見上げて告げる。すると骸は大げさに驚いたような声を上げ、わざとらしく肩をすくめて見せた。
 その態度が気に入らなくて、綱吉は眉間にしわを寄せる。
 星も出ない闇の中、よりによってどうして骸と歩いているんだと、綱吉は今更ながらに悩んだ。

「何がずうずうしいって言うんだよ」
「だって憎く争ってばかりしかいない愚かな人間が、死んだら神になれるなんて、エゴイズム以外の何物でもないじゃないですか」
 人間とは、何とも自分勝手な生き物なんでしょう。
 骸の、自分も人間であるくせに、世界中の人類を敵に回すような態度に、じゃあお前は人間じゃないのか、パイナップルか? と言ってやりたくなった綱吉だが、そんな言い争いをするのは大変馬鹿らしい。そして何より、悔しいことに自分では骸の口に敵わないことを知っていたから、綱吉はぐっと堪える。
「仲間同士であっても殺し合い、裏切り、相手を陥れるようなことしか考えていない愚かな人が、どうして死んだ後、己を騙した、もしかしたら殺したかもしれない人間に崇められることがありましょう?」

 どういうわけか骸と並んで闇夜を歩く綱吉は、これ又どういうわけかその右手を、骸の左手に握られていた。己より高いらしい体温が、握られた掌からじわじわと移って来るのを感じる。その掌の持ち主が生きているということがじわじわと伝わってくる。
「……確かに、そうかも」
 綱吉はもし誰かに部下を殺されたら、その誰かが死んでも神様などと讃えたりはしないだろう。むしろ復讐戦をして、自ら手を下しているかもしれない。自分が殺した人間を神と崇めるなんて、神を作るために人を殺すようで、馬鹿な考えとしか言いようがない。

「そう考えると、数えきれない人を殺してるあなたが、生きてるうちから神などと讃えられていることも、全くもっておかしなことですね」
「それがおかしいのは俺だってわかってる。だいたい俺はそれを肯定してないし、今言うなよ」
 ボンゴレファミリーの十代目ドンである綱吉は、数えきれないほどの人間を殺している。直接手を下す数こそ、幼い頃からマフィアを殺して回っていた隣の男に敵わないだろうが、己の判断や命令で、間接的に人を殺した数なら、随分と昔に抜いてしまっただろう。
 綱吉は、誰よりも多くの人間を殺している自覚がある。
 それなのに、綱吉の部下や同盟ファミリーの一部は、そんな綱吉の事を、聖母のようだ、神のようだと称えていた。敵対ファミリーにまで手を差し伸べる、誰よりも慈悲深いボンゴレのマリア。
 いくら綱吉が否定してもこの呼び名は広まってしまっている。誰よりも人を殺した、血に汚れ、帰り血で真っ赤になっている人物をつかまえて、神と讃えるのはどうかしている。
 考えて溜息をつけば、それは白く濁って空へと昇って行った。
 あ、なんか魂みたい。さよなら俺の魂の一部。神様によろしく。
 ぼんやりと上へ視線を向けていると、歩く速度が遅れたからか、それとも前を見ていないことへ注意のためか、右手を強く引かれた。


「そういえば六回も巡って来て、もはや人外魔境な骸は、神様とか信じてるの?」
「……君も随分と失礼なことを言いますねえ」
「だってお前、もう何もかも超越したようなこと言って気持ち悪いじゃん。なんか信じてるっていうか、もはやお前自身が教祖のようだよ」
 あ、でもお前の宗教なんて地球的規模でよくないから、変なの始めないでね。
「本当に君も、大概失礼な人ですね」

 一面闇に包まれた中、遠くに僅かに明かりが見えてきた。
 すっかり体の芯まで冷え切ってしまっていた綱吉は、遠くに見えた明かりに、少しだけ肩の力を抜いた。

 民家に迷惑かけないようにってちょっと森の奥に屋敷建ててるけど、街灯は必要だな。思わず骸とだって手を繋ぎたくなるほど怖いもん。今度獄寺君に言って手配してもらおう。地域の人たちの為にも、とか言えばリボーンも納得するかな。
 考えて、足を少し早める。
 だが、温かいシャワーを浴びてさっさと寝る! ことを目標に急ぎ出した綱吉と裏腹に、骸は歩みを止めてしまった。
 急いでいた綱吉の身体は、くんと後ろに引かれたようにバランスを崩した。慌てて転ばぬように力を込めながら振りかえれば、骸はぬるく笑みを浮かべている。
「なに? 今俺は温かさのために生きてるんだから、それを邪魔するならお前だって容赦なくぶん殴るよ」
「僕は……何も信じるものがないと思いですか?」
 綱吉は手を離して進んでしまおうとも考えたが、骸はがっちりと手を掴んでいて放してくれる気配はない。それどころか、じりじりと力を込められているような気がした。
「まだその話引きずってたの? 何も信じてないんじゃないの、むしろお前が神様信じてたら怖い」

「失礼ですね。僕にだってちゃんと、信じてるものはありますよ」
 綺麗な顔で骸は微笑んでいる。普段の、表面だけで心が冷え切って見えるような笑みとはまた違う、心底愉快そうな笑みだ。
 綱吉の手を握って離さない掌は、今では綱吉が痛みを感じるほどの力が込められ、溶けてしまいそうに熱い。

「たった一つ、僕が信じているのはたった一つです」

 握りこまれていた手を急に引かれて、綱吉はバランスを崩した。
 骸に倒れこむ身体を、手を離さぬまま片腕で受け止めて、そのまま背中に腕を回す。

「僕が信じているのは昔から、六回巡る中でもただ一つ、あなたの魂だけなんですよ」
作品名:八百万分の一の話 作家名:桃沢りく