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桜の話

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ボンゴレファミリーの本部、広い庭園の奥の奥には、大きな桜の木が植えられている。
 尊きボンゴレの始祖、最初の王様ジョットの娯楽の名残だ。
 ボスの座を退いた後、そそくさと日本に隠居を決め込んだ彼は、どうやら昔から日本に憧れをもっていたらしい。
 プリーモがボスの座を退いて、ノーノまで九世代。見向きもされぬままに放置され、それでもすくすくと成長を続け大きく育って行った桜の木は、遥か極東の島国、プリーモのあこがれ続けた日本よりやってきた10代目の王様、沢田綱吉に見つかって、再び日の目をみることとなった。

 日本より連れ出され、イタリアで生活を続けていた沢田綱吉はある春の日、レモンの香り漂う庭園を歩きながら、生まれ故郷日本、その春の景色を大層恋しんでいた。
 ああ日本に帰りたい、でも帰る訳にはいかない。せめてあの春の景色をもう一度。空気柔らかく風暖かく、すべてが瑞々しく世界が美しく見えた日本の春。空まで染め上げてしまいそうなあの薄桃色の花びら。大空すらかすんで見えるほど美しく、そのくせひらひらと儚げに散る桜を見たいと思いを巡らせて、それが不可能だと項垂れた。そんな綱吉の視界に、ひらひらと小さな花びらが入り込んで来たのだ。
 レモンの花びらと思い綱吉が手に取れば、それは仄かに色づいている。これはまるで桜の花びらのようだ、いやこれは桜に違いない、桜だ!
 興奮した綱吉は、緊急の場面以外役に立たないと、家庭教師様も溜息をつく超直感を駆使して、広大なボンゴレの敷地内の奥の奥、隠れるように咲いていた、我らが初代様の最大の娯楽、九本の桜の木を発見したのであった。



「ボンゴレなんか作ってくれちゃって初代はろくなことしないって思ってたんですが、この桜の木を見た時には、俺初めていい人だって思っちゃいました」
 沢田綱吉はくすくすと楽しそうに笑っている。
 彼は己の生まれ故郷を遠く離れイタリアの地で、ボスの顔をするようになってからあまり笑わなくなった。
 いや、笑わないというわけではない。だが他のファミリーを欺くため、己の心の内を悟らせないように笑顔を貼り付けていることはよくある。だが感情の全く伴わないその笑顔を、雲雀は笑顔とは認めていない。

 その綱吉が珍しく、とても幸せそうに笑っている。
 綱吉の笑顔は、雲雀にとっての桜である。誰もが振り返るような派手さはないが、皆の心の底にいつまでも残る、他のもの全てを薄れさせて見える力を持っている。そしてその後にほこほこと、花の散った後に伸びる葉のように不思議な力を感じるのだ。

 綱吉の笑顔が雲雀はとても好きなはずなのだが、今回はどうもそういう気分になれない。その笑顔を見れた喜びより、負の感情が勝ってしまうからだ。
 反応を示さない雲雀を不思議に思ったのか、綱吉は覗きこむようにして雲雀の顔を見つめてきた。
「雲雀さん、うれしくないですか?」
「別に」
 桜を見ても何も感じない旨を伝えると、綱吉は目に見えてガッカリした様であった。
「雲雀さん、桜好きですよね? 桜クラ病の時は嫌がってましたけど、それも治ったし……」
「僕は桜は好きじゃない」
「うっそー? え、何故、どうして? まだ並盛にいた頃、守護者でお花見した時は、群れるな、とか言いつつ楽しそうにリボーンと一升瓶空にしてたじゃないですか」
 五月蠅く喚き散らす綱吉を綺麗に無視して、雲雀は目の前の九本の大木と、一本の小さな苗木に目を向けた。

 綱吉の見つけた、初代が植えたという九本の桜。九本は縁起が悪いと言って、綱吉はわざわざ一本の苗木を取り寄せて、そこに植えたのだ。
 まだ頼りない小さな苗木は、この地で年々大きく成長し、徐々に満開の花を咲かすようになるだろう。それに伴って綱吉は、だんだんこの地に埋もれ、身体を、心を傷めて行くのだ。

「ねえ、桜の木の下に、死体が埋まってるって話、知ってる?」

 二十代とは思えぬ程の、あどけない表情で首を傾げた後、ええ!? と大袈裟に驚いた綱吉は気づけない。
 美しい物があり続ける為には、それ相応の犠牲が必要なことを。
 己自身が、ボンゴレという大木を咲かせ続ける為の犠牲であることを。
作品名:桜の話 作家名:桃沢りく