あめりかけがした。
「・・・痛そうですね。」
本田の表情は動かない。
否、アメリカには動かないように見えるだけで、
墨を溶かしたような黒の瞳をした小柄な男は痛ましそうに眉をひそめている。
「What's matter? ヒーローだからね、たまには怪我くらいするんだぞ!」
むしろ誇らしげな金髪は、
ぷにぷにの真っ白な肌に鮮血をぼたぼた垂らしながら笑っている。
掌を伝って中指の先から滴る血が床に作る派手な模様を、
本田は暗い目で見やる。
「困ったな、止まらないんだぞ。君これどうにかしてくれないかい?」
肩を竦めるアルフレッドは、
額から血が流れてきた感覚に思い切り目をつむって顔をしかめる。
眼鏡越しの瞼から、顎をめがけて一直線に赤い筋がおりていく。
「アメリカさん」
本田の顔から表情が抜け落ちた。
薄い唇から、抑揚のない声が漏れる。
「怪我をしたんですか?」
きょとんとしたアメリカの碧眼に、一瞬考えるような影がよぎる。
しかし満開の向日葵を思わせる笑顔は曇らない。
「さぁ?いっぱい出てるような気もするけど、痛くないんだぞ。
大した問題じゃないさ。そんなに心配しなくても大丈夫なんだぞ、キク。」
アメリカは拙い発音で口にして本田の肩を叩いた。
着物の肩にべっとりと付いた赤いものに、Oops、と思わず声を漏らす。
「ごめんよ。汚しちゃったみたいだ」
「構いません。・・・アメリカさん」
返事をする本田の声は暗い。
「誰の血なんです。」
「キク?」
上目遣いにアルフレッドをひたと見つめて、本田は言い募る。
「アメリカさんの血でないとしたら、それは一体誰の血なんですか」
「どうしたっていうんだい。」
普段自主的に発言もしなければ、
こんな執拗な物言いもしない本田にアルフレッドも戸惑いを隠そうとしない。
ふいと視線を逸らして、俯いた碧い瞳の男はぽつりと呟いた。
「僕にも分からないよ、キク。わからない。」
俯いた顎先からもぽたぽたと赤いものが落ちる。
片方閉じたままの碧眼は、だらりと下げた手と真っ赤に染まった足元を見つめている。