ヒカリ
(目の前に映るはずの世界はどこまでも暗い。そこにいる者の姿も形も分からないぼんやりと気配だけがもやみたいに漂っているそれがどんなに恐ろしいか。)
項垂れる黒に触れると男はそう言って呻くように泣いた。
男を支配する絶望にただ立ち尽くすしかなくて、エドワードは小さな声でロイと呼ぶ。
そうしなければ男が絶望に飲み込まれてしまうような気がした。
けれど希望を見せる事も出来ない自分が情けない。この男が。
彼が諦めるな。と希望を差し出してくれたのに。
「ロイ、ロイ。」
「エドワード、くらい、くらいんだ、君はそこにいるのか?」
「ああいるよ、ここに、いるよ。」
震える手を右手で優しく包んで頬に持っていけばああ。と男は幸せそうに笑い
愛おしげに口づける。柔らかな感触を見えない分味わうように手を這わせて
「右手が暖かいね。」
と、涙をこぼした瞬間、苦しいだとか悲しいだとかそんな感情が綯い交ぜになるを感じた。
(どうして、この男は)
「バカやろ……自分の心配しろよ…」
「だって嬉しいんだよ、ずっと君にこの右手で暖かい右手で触れてもらうのが夢だった。」
男の瞳は何も映さない。光すら。エドワードがいるそこではない何処かを見て嬉しそうに笑うのを見て、エドワードはその右手で男の頬を触れるしか出来なかった。
「アンタ、ほんとバカだな……どうしようもねぇよ…」
「本当に、ね。」
(君の美しい金色の髪を蜂蜜色の瞳を見ることができない事が一番恐ろしい。なんて。)